軽貨物運送事業(黒ナンバー)はアルコールチェックが必須|義務化の背景や運用方法を解説

近年、飲酒運転防止を目的に、運送事業者に対して、安全規則の強化や飲酒運転の厳罰化が進められています。
軽貨物運送事業(貨物軽自動車運送事業)、いわゆる黒ナンバーはアルコールチェックが義務化されており、目視確認およびアルコールチェッカーを用いて、酒気帯びの有無を確認しなければなりません。
単に確認するだけでは不十分で、安全規則に則って、結果を記録・管理する必要があります。
そこで本記事では、軽貨物運送事業(貨物軽自動車運送事業)における、アルコールチェックの運用方法や記録項目、義務化の背景について詳しく解説します。
軽貨物運送事業(貨物軽自動車運送事業)を安全に運営するために、本記事を参考にして、アルコールチェックの実施における重要なポイントをしっかりと理解しておきましょう。
目次 / このページでわかること
1.軽貨物運送事業(黒ナンバー)はアルコールチェックが必須
2011年5月1日から、事業用自動車の飲酒運転を根絶するため、運送事業者に対してアルコールチェックが義務化されています。
アルコールチェック義務化の対象事業者と具体例は以下のとおりです。
- 貨物軽自動車運送事業者:軽トラックでの個人配送、ラストワンマイル配送など
- 一般旅客自動車運送事業者:タクシー、路線バス、観光バスなど
- 特定旅客自動車運送事業者:介護施設や学校による福祉送迎バス、通学バスなど
- 一般貨物自動車運送事業者:大型・中型トラック運送など
- 特定貨物自動車運送事業者:特定の貨物の運送など
※これらの他、貨物自動車運送事業法第37条第3項の特定第二種貨物利用運送事業者も対象
運送業界では、物流量の増加により、軽貨物運送事業者(貨物軽自動車運送事業)の需要が高まり、個人事業主として運送業を開始する方が増えています。
関東地方における軽貨物運送事業者(貨物軽自動車運送事業)の数は、2019年で74,273事業者でしたが、2023年には101,656事業者まで増加しており、これに伴いより安全な運行が求められています。
しかし、個人事業主が多い軽貨物運送事業者(貨物軽自動車運送事業)では、自己管理に委ねている現状があるため、ドライバーひとり一人が安全運転を心がけることが大切です。
特に、飲酒運転は重大事故につながりやすいため、個人事業主の場合でも、業務前後の適切なアルコールチェックの実施が重要です。
関連記事:『軽貨物運送事業に必須の「黒ナンバー」とは?取得に必要な5つの条件と方法を3ステップで解説』
参考:
貨物軽自動車運送事業者数及び車両数の推移|国土交通省
自動車運送事業におけるアルコール検知器の使用について|自動車総合安全情報(国土交通省)
2.軽貨物運送事業(黒ナンバー)のアルコールチェック義務化の背景と概要
2024年10月1日から、運送事業者に対する酒酔い・酒気帯び運転に関する行政処分が強化されました。
違反の程度に応じて、事業者には一定期間の車両使用停止、ドライバーには免許停止や取消しなどの厳しい処分が科されます。
「なぜ最近になって、飲酒運転の取り締まりや罰則が強化されているのか?」と疑問に思う方も多いのではないでしょうか。
本章では、アルコールチェック義務化に至った背景と、その概要について詳しく解説します。
アルコールチェック義務化の背景
軽貨物運送事業者(貨物軽自動車運送事業)は、機動性の高さから、都市部などの混雑エリアや狭い道での運転が多く、ドライバーの運転技術や注意力が求められます。
しかし、軽貨物運送事業者(貨物軽自動車運送事業)は個人事業主が多く、運行管理が不十分なケースもあり、発生した事故の中には、飲酒運転による事故が多数含まれています。
2021年には白ナンバー事業者による飲酒運転の死亡事故が社会的に問題視され、アルコールチェック義務化に伴う安全規則の内容が強化されました。
2023年12月からは、軽貨物運送事業者(貨物軽自動車運送事業)においても、同様の安全確保が求められており、現在、すべての運送事業者に対して、アルコールチェックが義務化されています。
アルコールチェック義務化の概要
軽貨物運送事業者(貨物軽自動車運送事業)におけるアルコールチェックの義務化では、以下の運用ルールが定められています。
- 業務前後の点呼時に目視確認する
- 業務前後にアルコールチェッカーを用いて測定する
- 測定結果を記録、保管する
- アルコールチェッカーの保守を行う(故障したまま使用しない)
2023年12月1日からは、軽貨物運送事業者(貨物軽自動車運送事業)を含む、すべての事業用車両を対象に、アルコールチェッカーによる測定が義務化されています。
アルコールチェッカーは、常時有効な状態を保つ必要があり、故障したアルコールチェッカーを使い続けた場合、法律違反になるため注意しましょう。
3.軽貨物運送事業(黒ナンバー)のアルコールチェックの運用方法
軽貨物運送事業者(貨物軽自動車運送事業)が安全運転を徹底するためには、アルコールチェックの正しい運用が欠かせません。
アルコールチェックには、「目視による確認」と「アルコールチェッカーを用いた測定」の2つの方法があり、どちらも実施する必要があります。
そこで本章では、アルコールチェックの正しい実施方法について詳しく解説します。
目視で確認する
原則として、業務前後の点呼の際に、運転手の顔色や呼気の匂いや応答の声の調子などを、目視で確認する必要があります。
遠隔地での業務や、深夜や早朝の業務、直行直帰など、対面での確認が難しい場合は、ビデオ通話や電話での確認が認められています。
軽貨物運送事業者(貨物軽自動車運送事業)で複数の車両を有する事業者の場合、貨物軽自動車安全管理者や、補佐役が目視確認を行いますが、個人事業主の場合は、自身や家族による確認を行いましょう。
点呼時はアルコールチェック以外にも、車両・道路・運行の状況確認が義務付けられています。
軽貨物運送事業者(貨物軽自動車運送事業)における、正しい点呼の実施方法や、確認項目は関連記事で紹介していますので、参考にしてください。
アルコールチェッカーで測定する
点呼の際には、アルコールチェッカーを使用して、ドライバーの酒気帯びの有無を確認することが義務づけられています。
また、アルコールチェッカーを正常に使用するためには、メーカーが定めた取扱説明書に基づき、適切に使用・管理するとともに、以下の2項目を実施することが定められています。
- 電源が確実に入ること、損傷がないことを毎日確認する
- 週1回以上、以下の方法で確認を行う
- ・酒気を帯びていない者が、アルコールチェッカーを使用し、アルコールを検知しないこと。
- ・アルコールを含んだ液体を口内に噴射した上で、アルコールチェッカーを使用し、アルコールを検知すること。
正しいアルコールチェッカーの使い方やお手入れ方法は、関連記事で詳しく解説しています。法令を遵守し、安全な運行を行うための参考にしてください。
関連記事:
『アルコールチェッカーの使い方|正しく使用するためのポイントや注意点を紹介』
『アルコールチェッカーの除菌・消毒方法とは?注意点やおすすめ除菌グッズもご紹介
』
4.軽貨物運送事業(黒ナンバー)のアルコールチェックの記録項目
軽貨物運送事業者(貨物軽自動車運送事業)におけるアルコールチェックでは、法令に基づいて記録を適切に残すことが求められます。
記録すべき項目は以下の8つです。
【アルコールチェックにおける記録必須の8項目】
- 確認者名(点呼執行者)
- 運転者名
- 運転者の業務に係る自動車の自動車登録番号または、識別できる記号、番号など
- 確認の日時
- どのように確認したか(対面、電話、車両管理システムなど)
- 酒気帯びの有無
- 管理者からの指示事項
- そのほか必要な事項
記録した8項目は、1年間の保存が義務付けられています。
アルコールチェックの記入方法や記載例などは関連記事で紹介しています。ダウンロード可能なテンプレートも掲載していますので、ぜひご活用ください。
5.軽貨物運送事業(黒ナンバー)の飲酒運転が増加している
近年、軽貨物運送事業者(貨物軽自動車運送事業)における飲酒運転事故が増加しています。
アルコールチェッカーでの測定が義務化されたにもかかわらず、2023年の事業用自動車の飲酒運転事故件数は48件で、そのうち22件が軽貨物運送事業者(貨物軽自動車運送事業)による事故であると報告されています。
また、国土交通省の資料「貨物軽自動車運送事業者に対する今後の安全対策」では、運行管理を「実施している」「ある程度実施している」が75%にのぼる一方で、「実施していない」との回答が25%もあり、軽貨物運送事業者(貨物軽自動車運送事業)における安全管理体制には大きな課題が残っています。
関連記事:『軽貨物運送事業に必須の「黒ナンバー」とは?取得に必要な5つの条件と方法を3ステップで解説』
なお、軽貨物ドライバーの「労働者性」に関する議論もすすんでおり、過去には元請け企業が、軽貨物運送事業者(貨物軽自動車運送事業)に対して安全教育を行うことで、労働者性を問われるリスク(※)があるとし、教育の実施を控えたというケースもあります。
※給与の未払い、不当な扱い、ハラスメントなど
このような背景が、軽貨物運送事業者(貨物軽自動車運送事業)における飲酒運転事故の増加の一因と考えられています。
飲酒運転事故を防止するために、軽貨物運送事業者(貨物軽自動車運送事業)は、確実にアルコールチェックを実施し、安全運転を心がけることが大切です。
適切なアルコールチェックの運用には、「クラウド型のアルコールチェッカー」や「アルコール検知器協議会に認定されたアルコールチェッカー」がおすすめです。
6.【よくある質問】軽貨物運送事業(黒ナンバー)に関するQ&A
軽貨物運送事業者(貨物軽自動車運送事業)に関しては、道路交通法や、運送事業者に係る安全規則の改正により、多くの疑問が寄せられています。
特にアルコールチェックの義務化、安全管理者の選任など、遵守すべきルールが増えており、正しい情報を把握しておくことが重要です。
そこでこの章では、軽貨物運送事業者(貨物軽自動車運送事業)に関するよくある質問について、Q&A形式で解説します。
アルコールチェックをしない場合の罰則はある?
軽貨物運送事業者(貨物軽自動車運送事業)が、アルコールチェックを怠った場合、直接的な罰金や免許停止などの処分は規定されていませんが、事業所や貨物軽自動車安全管理者に対して、是正措置命令などの行政指導が行われることがあります。
さらに、これに従わない場合、解任命令や50万円以下の罰金が科されるおそれもあります。
貨物軽自動車安全管理者の選任は義務?
軽貨物運送事業者(貨物軽自動車運送事業)は、営業所ごとに貨物軽自動車安全管理者を選任することが法律で義務づけられています。
個人事業主の場合は、本人、配偶者、家族従業者の選任が可能です。
貨物軽自動車安全管理者の選任前と、選任後2年ごとに講習を受講する必要があります。
貨物軽自動車安全管理者はいつまでに選任が必要?
令和7年3月末までに貨物軽自動車運送時の経営届出を行った事業者は、令和9年3月までに選任する必要があります。
令和7年4月以降に貨物軽自動車運送事業の経営届出を行った事業者は、速やかに選任を実施する必要があります。
選任後は運輸支局に届出を行いましょう。届出の様式は、国土交通省のページから確認できます。
7.まとめ| 軽貨物運送事業者における 適切なアルコールチェックを実施しよう
本記事では、軽貨物運送事業者(貨物軽自動車運送事業)におけるアルコールチェック義務化の背景や、アルコールチェックの運用方法、記録項目などについて解説しました。
軽貨物運送事業者(貨物軽自動車運送事業)において、アルコールチェックの実施は、ドライバーと社会全体の安全を守るために欠かせない取り組みです。
法令で定められた方法に従い、適切に測定・記録・管理を行うことが、飲酒運転による事故防止と、運送業界全体の信頼獲得につながります。
まずは、現在のアルコールチェックの運用体制を見直し、安心・安全な運送業務を実現しましょう。