【要注意】アルコールチェックのなりすましや改ざんの手口と罰則|事例や企業がとるべき防止対策を紹介

飲酒運転の防止を目的に義務化されたアルコールチェックですが、その一方で「なりすまし」や「データの改ざん」などの不正行為が問題視されています。
飲酒運転は重大な交通違反であり、企業の社会的信頼を大きく損なう行為です。
過去には、ドライバー本人ではない第三者が代わりに検査を行ったり、測定データを偽装するケースが発生しており、企業には防止対策の徹底が求められています。
そこで本記事では、アルコールチェックのなりすましや不正行為の手口、罰則内容や過去事例、企業のなりすまし防止対策や業界別の取り組みについて詳しく紹介します。
目次 / この記事でわかること
1. アルコールチェックのなりすましや不正行為の手口とは?
企業が飲酒運転防止を目的にアルコールチェック体制を整備しても、すべての不正を完全に見抜くのは容易ではありません。
なりすましなどの不正行為は、アルコールチェッカーの仕組みを逆手に取って行われるケースが多いため、機器の特性を理解することが不正防止のポイントです。
そこで本章では、不正行為で使われる4つの主な手口を解説します。
1-1 第三者による「なりすまし」
アルコールチェックで最も多い不正が第三者による「なりすまし」です。
「アルコール反応が出るかもしれない」と感じたドライバーが、飲酒していない同僚の息を代わりに吹き込ませるケースがあります。
対策としてアルコールチェック時の写真を撮る方法がありますが、静止画では管理者が測定の瞬間を正確に確認できません。
なりすましは直行直帰や出張先など、管理者が同席できない状況で発生しやすいため、アルコールチェック時は対面での本人確認が重要です。
対面での確認が難しい場合は、顔認証やワンタイムパスワードによる検知器認証が搭載されたアルコールチェッカーを活用し、本人以外が息を吹き込むことができないような仕組みを作ることが効果的です。
1-2 息の代わりにポンプを使用
アルコールチェックの不正行為のひとつに、ポンプやチューブを使って、息の代わりに空気を送り込む手口があります。
ストロー部分に小さな穴を開けてチューブを通し、見た目は自分で息を吹き込んでいるように装いながら、実際はポンプから空気を送る手法です。
また、チューブを通して別の人が横から息を吹き込むケースも報告されています。
アルコールチェッカーへの細工は極めて悪質な不正であり、発覚した場合には厳しい行政処分が科される可能性があります。
防止策としては、アルコールチェッカーのストローの接続部が写真に収まる検知器を使用することが望ましいです。
1-3 食べ物で言い訳をする
以下のような食品を摂取した直後は、アルコール反応が出る可能性があります。
【アルコール反応が出る可能性がある食品】
- 発酵食品(キムチ、味噌など)
- 蒸しパン
- コーヒー
- ガム、アメ
- 栄養ドリンク、エナジードリンク
- ノンアルコールビール
- など
上記以外にも、タバコやマウスウォッシュに反応するケースがあり、メーカーも「アルコール反応が出る可能性がある食品」として検知直前に摂取しないよう、注意を呼びかけています。
食品などに反応する特性を知っている人の中には、食べ物で言い訳をするケースがあるため、安易に見逃すことは危険です。
そもそも、食品による反応が出た場合でも、安全が確認できるまでは運転してはいけません。
そのため、アルコールチェック前に口にする飲食物についても、あらかじめ注意喚起や指導を行い、時間をおいてから再度検知をして数値が出なくなってから運転を許可する、などのルール決めを行うことが大切です。
1-4 壊れたアルコールチェッカーを使用する
センサーの劣化や内部機器の不具合がみられるアルコールチェッカーは、正確な検知ができず、不正が行われるケースがあります。
特に、携帯型アルコールチェッカーを使用する企業では注意が必要です。
たとえば、検知器に番号をつけて有効期限や使用回数を管理し、期限に達する前にメーカーが定めている方法でメンテナンスや検知器の買い替えを行う、などの対応が必要です。
それ以外にも、1週間に一度を目安として、検知器が正常に作動するかをマウスウォッシュなどを用いて確認し、アルコールチェッカーを常に有効な状態で保持しておく義務があります。
アルコールチェッカーの寿命や、校正(メンテナンス)についての詳細は、以下の記事を参考にしてください。
関連記事:
『アルコールチェッカーの寿命は|使用期限や買い替え時期、おすすめ検知器を紹介』
『アルコールチェッカーの校正とは?定期的なメンテナンスの重要性』
2. アルコールチェックなりすましの背景
アルコールチェックのなりすましや改ざんが発生する背景には、「形式的なアルコールチェック体制」と「管理体制の甘さ」が大きく関係しています。
2025年8月時点で、株式会社パイ・アールが実施した「アルコールチェックの導入と運用実態に関する調査」では、全国のアルコールチェック義務化対象企業のうち、約60%は義務化前からアルコールチェッカーを導入しています。
さらに、約38%が義務化直後に対応を完了しています。
しかし、多くの企業が早期に取り組みを始めた一方で、運用の徹底には課題が残されているのが現状です。
実際、回答者の約34%が「運転前しか実施していない」「検知漏れがある」「そもそも実施されていない」と回答しており、形だけのアルコールチェックにとどまる企業も少なくありません。
さらに、約35%の企業では測定結果を第三者が確認しておらず、自己申告や未記録のまま運用されているケースもみられました。
管理が徹底されていない環境下では、「どうせ確認されない」「検査をすり抜けられる」といった油断が生まれ、なりすましなどの不正行為を誘発しやすくなります。
導入率の高さに安心せずに、アルコールチェックを「形式」ではなく「実効性のある安全対策」として運用を行うことが重要です。
より詳しい調査データや運送業におけるアルコールチェックの現状については以下の関連記事で紹介しています。あわせて参考にしてください。
関連記事:『【独自調査】アルコールチェック義務化から1年半|企業の実態調査で見えた課題とは?』
参考:【秋の全国交通安全運動】アルコールチェック義務化から約1年半制度はできたが3人に1人が検知結果を”自己申告のみ”、3割以上が第三者による確認を行わない、曖昧な運用|PR TIMES
3. 実際に発生したなりすましや点呼記録改ざんの事例
なりすましや点呼記録改ざんの事例は、これまでに多数発生しており、中には事業許可の取り消し処分が下されたケースがあります。
アルコールチェックのなりすましは運送業界だけでなく、航空業界や鉄道業界でも発生しており、すべての交通インフラ事業者が当事者意識を持って不正防止に取り組むことが大切です。
そこで本章では、実際に発生したなりすましや点呼記録改ざんの事例を交え、不正行為が企業の社会的信頼に与える影響の大きさについて解説します。
3-1 内部告発でなりすましが発覚
緑ナンバーは2011年からアルコールチェックが義務化されていますが、2017年6月に北海道のバス会社で、同僚の身代わり検査によるなりすまし行為が発覚しました。
ドライバーは宿泊先での点呼時、1回目の検査で0.061mg/lのアルコールが検出されたため、再検査の際に同僚に代わりに息を吹き込ませ、「検知なし」として乗務を開始しました。
バス会社では、カメラ付きタブレットとアルコールチェッカー、データ送信用の携帯電話を組み合わせて運用していましたが、ドライバーはタブレットのカメラでは確認できない位置で、同僚がアルコールチェッカーに息を吹き込んでいたことが明らかになりました。
バス会社は再発防止策として、宿泊先での飲酒を禁止する方針を公表しました。
3-2 細工を施し点呼記録を改ざん
福岡市のバス会社で、ドライバーによるアルコールチェックの不正が相次いで発覚しました。
バス会社の発表によると、発覚するまでの約1年間で、30〜60代の男性ドライバー7人がアルコールチェッカーのストローに細工を施し、計68件の飲酒検査を不正にすり抜けていたことが明らかになりました。
アルコールチェッカーを不正に細工する行為は、ドライバー自身だけでなく、利用者の安全までも危険にさらす行為です。
バス会社で使用していたアルコールチェッカーは、息を吹き込むと同時に本人の顔を撮影し、画像とデータを会社に送信する仕組みでしたが、ドライバーらはストローに穴を開け、別のチューブや小型ポンプを使って、カメラの死角から空気を送っていました。
バス会社は再発防止策として宿泊先での飲酒を禁止し、関与したドライバーらに懲戒解雇処分と、現場に居合わせながら不正を見過ごしたバスガイドに10日間の出勤停止処分を下しました。
3-3 不適切点呼で事業許可取り消し処分
2025年6月に全国の郵便・配送事業者で「不適切点呼」が相次いで発覚しました。
乗務前後に義務付けられているアルコールチェックや体調確認が一部の事業所で正しく実施されておらず、国土交通省による特別監査の結果、軽車両を使用する事業所に車両停止や事業許可取り消しの行政処分が下されました。
配送業者の点呼は法律で義務付けられており、実施する項目も定められています。
アルコールチェックも実施項目のひとつですが、今回の調査の結果、未実施やデータの改ざん、飲酒運転などが発覚しました。
行政処分を受けた事業所は、再発防止に向けて点呼体制の見直しや飲酒運転防止のガイドラインの作成、全従業員対象の研修を実施すると発表しています。
3-4 なりすましにより懲戒処分
アルコールチェックのなりすましは、運送業界だけの問題ではありません。
2017年12月、航空会社でパイロットによるアルコールチェックのなりすまし行為が発覚しました。
出社前に予備のアルコールチェッカーで検査したところ、基準値0.10mg/lをわずかに下回る0.09mg/lのアルコールが検出されたため、同乗する別のパイロットに身代わりで検査を受けさせました。
その後、通常通りに運行を開始しており、関係者は社内規程に則って懲戒処分を受けています。
また、2025年8月にアルコール検査結果を改ざんする不祥事が発覚しており、国土交通省は航空会社に対して厳重注意を行い、パイロットは懲戒解雇処分を下されました。
航空業界では近年、パイロットの飲酒問題や不正行為が相次いでおり、再発防止のための検査体制強化や教育徹底が急務となっています。
3-5 業務前後のアルコールチェック未実施
2025年10月、九州地方のバス会社で、乗務前後に義務付けられているアルコールチェックの未実施が相次いで発覚しました。
バス会社による調査の結果、4〜9月の間に高速バスや路線バスで、計11回の乗務前または乗務後のどちらかの検査が実施されていないことが明らかになりました。
飲酒運転は確認されていないものの、アルコールチェックの未実施は法令違反にあたるとして、バス会社は再発防止に努めると表明しています。
4. 3つの防止策|アルコールチェックのなりすましや改ざんの対策
アルコールチェックの不正防止にはルールを設けるだけでなく、運用上の仕組み作りやドライバーへの教育を講じることが大切です。
実際、なりすましや改ざんは技術的にも心理的にも発生しやすく、企業全体で防止対策の仕組み作りが求められています。
そこで本章では、アルコールチェックの不正防止に効果的な3つの対策について紹介します。
4-1 顔認証付きアルコールチェッカーを導入して「なりすまし」を防ぐ
なりすまし防止に効果的なのが、顔認証付きのアルコールチェッカーです。
測定時に事前に登録した顔写真と照らし合わせることで、第三者によるなりすまし防止につながります。
さらに、ワンタイムパスを使用した検知器認証が搭載されたモデルの場合、アルコールチェッカーに一時的に表示されたパスワードをもとに、カメラの外で第三者が代わりに息を吹き込むなどの不正行為が行われていないかを確認できます。
直行直帰や出張が多い企業でも導入しやすく、管理者やドライバーの作業負担を抑えながら、信頼性の高いアルコールチェックの実施が可能です。
4-2 アルコールチェックシステムで記録を自動化して改ざんを防止する
記録改ざんを防ぐためには、アルコールチェック結果を自動で記録・保存できるクラウド型アルコールチェックシステムの導入が有効です。
測定結果が自動的にクラウドへ送信されるため、手書き記録による改ざんのリスクを排除できます。
さらに、管理者は測定結果を管理画面でいつでも確認できるため、測定忘れやアルコール反応が起きた際は、迅速な対応が可能です。
過去のデータも見返しやすく、監査時もスムーズに対応できます。
4-3 社員教育で「不正のリスク」と「責任意識」を浸透させる
高性能のアルコールチェッカーを導入した場合でも、最終的に運用するのは「人」です。
不正リスクを完全に排除するのは難しいため、なりすましが発覚した場合にどのような処分を受けるのか、事前に正しく周知しておきましょう。
また、定期的に個別の安全運転教育や社内研修を実施し、アルコールチェックの重要性と責任意識を浸透させることも重要です。
5. 業界別|なりすまし防止への取り組み事例
アルコールチェックのなりすまし防止は、すでに多くの業界で重要項目として取り組まれています。
不正を見逃さない体制の構築は、企業の社会的信頼を築くための大切な取り組みです。
実際に、運送・鉄道・航空・船舶といった交通インフラを支える分野では、なりすましなどの不正防止を目的とした安全対策の強化が行われています。
そこで本章では、各業界のなりすまし防止への取り組み事例について紹介します。
5-1 運送業界のなりすまし対策事例
運送業界では、ドライバーのアルコールチェックを徹底するため、顔認証機能付きのアルコールチェッカーや、クラウド型アルコールチェックシステムの導入が進んでいます。
さらに近年は、基準値を超えたアルコールが検出された場合にエンジンが始動しないように制御できる「アルコール・インターロック」も普及しています。
一部のアルコール・インターロックには顔認証機能が搭載されているため、なりすましなどの不正行為の防止が可能です。
5-2 航空業界のなりすまし対策事例
航空業界では、アルコールチェックが義務化されていますが、パイロットや客室乗務員、整備士による飲酒問題が相次いでおり、第三者立ち会いのもとによるアルコールチェックが実施されています。
また、航空業界における複雑な勤務体系に対応するために、クラウド型アルコールチェックシステムの導入が進んでいるのも特徴です。
管理体制の手間を減らしつつ、データの改ざんや記録の紛失を防止できるため、現場の負担を軽減できます。
さらに、航空会社がパイロットに携帯型アルコールチェッカーを貸与し、滞在先でもアルコールチェックを促すなど、徹底した管理が行われています。
5-3 鉄道業界のなりすまし対策事例
鉄道業界では、業務前後のアルコールチェックが義務付けられていますが、アルコールチェッカーの不正使用が発生しています。
電車の運転士が飲酒運転を行った場合、免許取り消しの行政処分や、会社規程による減給や懲戒解雇処分を受ける可能性が高いです。
実際に、なりすましが発覚した鉄道会社では、第三者による立ち会いのもとアルコールチェックを実施するよう規程を設けていましたが、不正が発覚したため運転士を懲戒解雇処分とし、カメラ付きのアルコールチェッカーに切り替えた事例があります。
また、運転士に携帯型アルコールチェッカーを貸与し、自宅での自主検査を促す鉄道会社もあり、鉄道業界全体で飲酒運転防止の取り組みが進んでいます。
5-4 船舶業界のなりすまし対策事例
船舶業界では、2018年にクルーズ船の船長が飲酒状態で運航し、桟橋に衝突した事故を契機に、アルコールチェック体制の見直しと厳格化が進みました。
以前は酒気帯び確認の方法が各社の自主運用に委ねられていましたが、2020年の船員法施行規則改正により、船長が乗組員の酒気帯び有無を確認する義務が法的に明文化されました。
現在では、アルコールチェッカーを使用した測定が必須とされ、違反時には行政処分が科せられます。
これを受け、船員の労務管理システムとアルコール測定結果を連携させる仕組みの導入が進んでおり、測定結果と勤務記録を一元管理することで、なりすましやチェック漏れの防止、船上の安全性向上が実現しています。
6. なりすまし防止には「アルキラーNEX」
アルコールチェックのなりすましを防ぐためには、本人確認機能を備えたアルコールチェックシステムの導入が効果的です。
クラウド型アルコールチェッカー「アルキラーNEX」は、顔認証機能とワンタイムパスによる検知器認証機能により、なりすましなどの不正を防止でき、測定結果が自動で記録・保存されるため、データ改ざんのリスクも低減できます。
さらに、スマートフォンやパソコンからの確認が可能で、管理者は「いつ・どこで・誰が」アルコールチェックを実施したかだけでなく、運送業における義務化の法令遵守に必要な情報を遠隔地からでも確認できます。
また、通知機能により従業員の検知忘れやアルコール反応を把握でき、飲酒運転の防止が可能です。
アルキラーNEXは、業界を問わず幅広い企業で導入されており、利用者の99.7% ※ が継続利用する高い信頼性を誇ります。
※ 毎月解約率の平均値を差引した利用者割合(2022年5月〜2023年4月 自社調べ)
アルキラーNEXのより詳しい機能や使い方について、以下の製品ページをご覧ください。
7. まとめ|アルコールチェックのなりすましを防止して安全な移動を目指そう
本記事では、アルコールチェックのなりすましや不正行為の手口、なりすましが発生する背景や過去事例、企業の防止対策や業界別の取り組みについて紹介しました。
アルコールチェックのなりすましや改ざんは、企業の信頼を損なうだけでなく、重大な事故につながる危険な行為です。
不正を根絶するためには、対面での確認や顔認証機能が搭載されたアルコールチェッカーの導入、メーカーの指示のもと、定期的なメンテナンスや買い替えを行うことが重要です。
また、安全運転教育を行い、ドライバー一人ひとりが安全意識を高めることで、飲酒運転による事故リスクを低減できます。
企業と従業員が協力して、より安心で安全な交通環境の実現を目指しましょう。