従業員の飲酒運転(酒気帯び運転)による会社の責任と仕事への影響|事例と対策4選
業務中にこっそりお酒を飲んで飲酒運転をしてしまったという方はあまりいないかもしれませんが、「前夜にたくさん飲酒した翌日、会社到着後に車を運転し、意図せず飲酒運転になってしまった」というケースは少なからず存在するでしょう。
企業としては会社従業員の飲酒運転を未然に防ぐことが大切です。
しかし、もし従業員が意図せず飲酒運転をしてしまった場合、会社はどのような処分・責任を取る必要があるのでしょうか?
本記事では、
- 従業員が飲酒運転をした際の会社の責任
- 実際に飲酒事故を起こした場合の処分
- 飲酒運転の事故を防ぐために会社ができる対策4選
- 業務時間外の飲酒運転に対しての懲戒処分
などについて解説します。
目次 / このページでわかること
1.従業員が飲酒運転をしたことによる会社の処分・責任
従業員が飲酒運転をすることによるリスクは下記4つに分かれます。
- ・刑事責任
- ・行政責任
- ・民事責任
- ・その他の責任
下記で細かく見ていきましょう。
① 刑事責任
飲酒運転に対する罰則や会社が刑事責任を負う可能性があるケースに対して適応される恐れのある罰則を順に確認していきましょう。
まずは運転者に対する罰則についてです。
酒酔い運転 | 5年以下の懲役又は100万円以下の罰金 |
---|---|
酒気帯び運転 | 3年以下の懲役又は50万円以下の罰金 |
違反種別 | 酒酔い運転 | 35点 |
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酒気帯び運転 (呼気1リットル中のアルコール濃度0.25ミリグラム以上) | 25点 | |
酒気帯び運転 (呼気1リットル中のアルコール濃度0.15ミリグラム以上0.25ミリグラム未満) | 13点 |
また、運転者以外の責任として、飲酒により正常な運転ができないと認識していながら運転をさせた場合や、飲酒により正常な運転が出来ない状態であることを容認していた場合に対しても運転者同様に重い罰則が科せられます。
運転者が酒酔い運転 | 5年以下の懲役又は100万円以下の罰金 |
---|---|
運転者が酒気帯び運転 | 3年以下の懲役又は50万円以下の罰金 |
運転者が酒酔い運転 | 3年以下の懲役又は50万円以下の罰金 |
---|---|
運転者が酒気帯び運転 | 2年以下の懲役又は30万円以下の罰金 |
酒気帯び運転、酒酔い運転については「飲酒運転となる基準や処分内容をわかりやすく解説」にて詳細を記載しています。
参考:飲酒運転の罰則等|警視庁
② 行政責任
貨物運転事業者など業種によっては飲酒事故が発生すると、会社に対して一定期間車両の使用停止や事業停止、営業許可取消処分等の責任が発生する可能性があります。
③ 民事責任
従業員が飲酒運転で事故を起こし他人を死傷させると、民法や自動車保障法上の損害賠償責任が生じます。また運転手個人だけではなく、会社に対しても民事責任が生じます。
これは民法715条において規定される使用者責任に基づいた損害賠償請求に該当します。
「ある事業のために他人を使用する者は、従業員が事業の執行に関連して第三者に損害を与えた場合に従業員と同じ責任を負う」とする制度です。
とくに飲酒運転の加害者の過失は認められやすく、慰謝料も高額になる可能性があります。また、飲酒運転を会社が黙認・許容していた場合は、さらに責任も重くなります。
④ その他の責任
上記3つ以外に発生するのが、SNSにおける拡散と炎上による会社の信用への被害です。一昔前とは違い情報の拡散が早い昨今では、1度発生してしまうと鎮火することは難しく、出回った情報を完全に消し去ることもできません。
たった一人の過ちで長年築き上げた会社の信用は一瞬のうちに崩れてしまいます。世間の評判は経営上の大きなリスクともなりえるため、従業員が飲酒運転をおこさないように徹底した管理をしていきましょう。
2.従業員が酒気帯び運転した場合の仕事への影響
飲酒運転を行った場合の罰則や処分は重く、逮捕された場合は逮捕から起訴まで最大23日間の身柄拘束を受けることがあります。
飲酒運転の報道を受けSNSによる拡散が起こると、会社へのクレームの電話やメールなどにより本来の業務が長期間滞ってしまい、会社全体の仕事への影響も大きな問題になることが予想されます。
飲酒運転を行った従業員だけではなく、会社としても従業員が飲酒により正常な運転が難しい状態であることを認識していた場合には、「飲酒のおそれがある者への車両の提供を行った」として罰金や罰則が科せられる恐れがあるとともに、貨物・旅客運送事業者に該当すると一定期間の事業停止や営業取消処分などの重い処罰も科せられることが考えられます。
また、飲酒運転により相手に怪我を負わせたり死亡させた場合には、従業員に民事責任が生じるだけではなく会社に対しても民事責任が生じることで、損害賠償請求を受ける可能性があります。
業務中の飲酒運転による事故の裁判例として、危険運転致傷罪が制定されるきっかけとなった1999年11月の東名高速飲酒運転事故があります。
飲酒運転が常習化していたドライバーの運転するトラックが乗用車に追突した事故により、3歳と1歳の姉妹が亡くなり男性が全身の4分の1を火傷する悲惨な事故に対し裁判所はトラック運転手および会社に対しおよそ2億5000万円の支払いを命じています。
このように会社に対する責任や影響についてはとても大きなものとなっています。
3.従業員の飲酒運転に対する会社の対応・処分
従業員が飲酒運転で逮捕された場合、会社としてどのような処分が課せられる恐れがあるのでしょうか?
また、どのような対応が必要なのでしょうか?
法的な基準はありませんが、各企業によって定められている就業規則や職務規定に記されている内容に基づいた処分が考えられますので詳しく解説していきます。
① 懲戒解雇
最も重い処分は懲戒解雇となっており、懲戒解雇となった場合は退職金や解雇予告手当の支給がない場合が多く、即時解雇となります。
懲戒解雇が認められるためには、懲戒処分についての具体的な条件や規定が従業員に周知されていること、従業員の行為が懲戒処分に値する内容であることなどの条件を満たす必要があります。
② その他の処分
その他の処分として多く定められているのは、戒告、減給、降格処分などがあります。
どのような処分となるかは定められている規定によって決定されますが、会社にもたらす影響や行為の内容によって判断されます。
4.従業員の飲酒事故による処分・責任を負った事例
では、従業員が飲酒事故を起こした際に下された処分について、実際の事例を見ていきましょう。
主に2つの事例を挙げますが、特定を避けるために詳細は伏せています。
事例①:ある市職員が飲酒運転を行い、掲示板を破損させてしまった
深夜に飲酒をし自家用車で帰宅していた際に、選挙ポスター掲示板に衝突し破損させたがそのまま帰宅。
翌朝現場の状況を確認し、110番通報を行った。懲戒免職処分に。
事例②:ある県職員が飲酒運転で、乗用車と衝突した
飲酒後運転代行で帰宅し、午前4時から午前9時まで睡眠を取った後に運転をしたところ、対向車線をはみ出し乗用車と衝突する事故を起こした。アルコール検知の結果、呼気1リットル当たり0.16ミリグラムのアルコールが検出された。懲戒免職処分に。
このように、従業員や職員が実際に飲酒運転で懲戒解雇や懲戒免職・懲戒処分に至ったケースがあります。自社の従業員や職員を懲戒解雇してしまうのは、会社にとっても大きな損失となりえます。
たとえ会社が直接責任を負う必要がなかった場合でも、従業員が懲戒解雇になってしまえば経営上大きなダメージを受けることは間違いありません。自社と従業員を守るために飲酒運転の事故を防ぐように会社として動いていく必要があるでしょう。
5.飲酒運転の事故を防ぐために会社ができる対策4選
従業員を守り飲酒事故を防ぐために、会社としてできる対策は主に下記の4つです。
- ① 社員教育・周知
- ② アルコール検査の徹底
- ③ ドライブレコーダーの導入
- ④ 飲酒運転による処分のルール化
① 社員教育・周知
飲酒事故の有無にかかわらず、「飲んだら乗るな・乗るなら飲むな」の意識を徹底的に教育しましょう。
主に、飲酒運転をしてしまう人は、下記3パターンに大別されると言われています。
- 事故さえ起こさなければセーフと考える人
- アルコールの運転に及ぼす影響を軽く見ている人
- 飲酒によって気が大きくなる人
このような従業員に対応するために各警察庁が提供しているポスターやチラシ、リーフレットなどの広報啓発グッズを利用し、会社全体の意識向上を図りましょう。また飲酒運転がいかに悪影響を与えるか周知を行うといった地道な活動が必要になります。
関連記事:『飲酒による運転への影響|発覚した場合の罰則や対策まで解説』
また、業務終了後にみんなで飲みに行く際は、数名「ハンドルキーパー」を任命するようにルール化しておくなど、飲酒運転撲滅を徹底するのも1つの手です。中には飲酒運転撲滅に積極的に取り組むために、会社が手当を支給するところもあるようです。
② アルコール検査の徹底
2022年4月1日からは白ナンバー車両を保有(安全運転管理者を選任)している事業所でも1日2回のアルコールチェックが義務化されています。
さらに、2023年12月からは同じく白ナンバー車両を保有している事業所でも導入が義務化されているアルコールチェッカーを用いた運転前後の酒気帯びの有無の確認を行う必要があります。
万が一、出勤前のアルコール検知でアルコール反応が出た従業員がいた場合は、出勤させないようにしましょう。また、退勤時にアルコール反応があった場合は、公共交通機関を利用して帰宅させるなど、アルコールチェッカーを活用しながら検査を徹底しましょう。
厳格なアルコールチェックを習慣化するためにも、管理者と従業員ともに無理なく継続できるアルコールチェックシステムを導入することをおすすめします。
③ ドライブレコーダーの導入
ドライブレコーダーが搭載されていると、不規則な車線のはみ出し等から飲酒の疑いを探ることが可能です。
また、飲酒運転をしている車両との事故や物損事故、追突事故など、あらゆる状況を記録することができるため、飲酒運転に限らず役立ちます。
さらに、最近ではドライブレコーダーで記録した映像を保険会社とリアルタイムでやり取りしながら確認できるデバイスも登場しています。
④ 飲酒運転による処分のルール化
民事責任など重たい罰則のある飲酒運転ですが、従業員の飲酒運転に対する意識をより高めるために、社内の処分ルールを設けるのも1つの方法でしょう。業務中に飲酒運転をした場合の社内ルールを構築・周知しておくことで、未然に飲酒運転を防ぐことができます。
6.業務時間外の飲酒運転に対して懲戒処分を科すことはできるのか?
運転業務とは直接関係のない業務や軽微な飲酒運転の場合、懲戒処分を科すことはできません。
ただし、テレビや新聞などのメディアで報道されたり、飲酒運転による人身事故を起こしたりした場合など、会社の信用に大きく損害を与える可能性がある際は懲戒処分の対象になることもあります。
従業員が懲戒処分になった裁判例
Y社(貨物自動車運送事業)のセールスドライバーが業務終了後に飲酒し、自家用車を運転中に酒気帯び運転で検挙され罰金20万円・運転免許停止30日(講習受講により1日に短縮)の行政処分を受けたが会社への報告はなし。
その後、運転記録証明書の取得により酒気帯び運転の事実が発覚し、Y社はセールスドライバーに対し懲戒解雇の意思表示。Y社は大手企業であることから、社会的評価の低下に結びつき、円滑な運営に支障をきたすおそれがあるため懲戒解雇が適法と判示(2007年8月・東京地裁)。
以上のことからも「プライベートだから、少し羽目を外しても大丈夫」と油断して飲酒運転をしてはいけません。
些細な油断が人生を大きく変えてしまいます。
7.まとめ|従業員の飲酒運転のリスク管理は会社の重要なマネジメントの業務の1つ
今回の内容を下記にまとめました。
- 従業員が飲酒運転をした場合、会社の信用を失うリスクが高くなる
- 飲酒運転によって懲戒免職になった事例もある
- 会社は飲酒運転の事故を防ぐためにアルコールチェッカーやドライブレコーダーなどのデバイスを導入し、なおかつ社内での教育や懲罰を明確にしていく必要がある
従業員に対して「一人ひとりが飲酒運転を避けるよう心掛けましょう」と伝えるのは簡単ですが、周囲の状況によっては避けられない飲酒運転が起こることもあるかもしれません。
そのため、社内風土として飲酒運転を絶対に許さない取り組みを行うことが重要です。これにより、会社の経営だけでなく従業員一人一人の人生を守ることができます。経営者と従業員が一丸となって、飲酒運転のない風土を築きあげていくことが求められます。