物流における「貨客混載」の概要と導入された背景とは?5つの導入事例とメリット・デメリットを紹介

近年、物流業界では人手不足や環境問題への対応が求められており、「貨客混載(かきゃくこんさい)」という新たな輸送の形が注目されています。
貨客混載とは、旅客輸送と貨物輸送を一体化させて、効率化やコスト削減を目指す取り組みです。
本記事では、貨客混載の概要や導入の背景をはじめ、メリットやデメリットについて詳しく解説します。
国内での具体的な導入事例や、今後の課題についても紹介するので、公共交通の利用や物流がどのように変化するのかイメージしてみましょう。
目次 / この記事でわかること
1. 物流を変える「貨客混載」とは?概要と導入の背景
物流と公共交通の課題を同時に解決する手段として注目されているのが「貨客混載」です。
貨客混載は、2017年9月の規制緩和とともに取り組みが広がり、2023年4月からは全国で実施可能となりました。
2025年現在も貨客混載の取り組みは広がっていますが、貨客混載の詳しい内容や、企業が積極的に導入する理由について理解している方はまだ多くはありません。
そこで本章では、貨客混載の概要や導入の背景について分かりやすく解説します。
「貨客混載で物流がどのように変化するのか?」をイメージしながら、理解を深めていきましょう。
貨客混載とは?
貨客混載とは、公共交通(バス・タクシー・新幹線・電車・飛行機・フェリーなど)を活用して荷物を運ぶ取り組みです。
国土交通省は、「旅客自動車運送事業者がバスやタクシーを用いて貨物を運送する場合」と「貨物自動車運送事業者がトラックを用いて旅客を運送する場合」で最低車両台数や積載重量などの細かい許可基準を設けており、基準を満たした事業者のみが貨客混載を実施できます。
2010年以前は、貨客混載は一部地域を除いて禁止(制度上、貨客混載の実施は極めて限定的であり、事実上は困難な状況)とされていました。
しかし、国土交通省は2017年に、旅客輸送と貨物輸送それぞれの許可を取得した事業者に対して、一定条件のもとで「事業のかけもち」を認める規制緩和を実施しました。
これにより、乗合バスは全国で、貸切バス・タクシー・トラックは過疎地域において貨客混載が実施可能になりました。
さらに、2023年には過疎地域に限らず、地域の関係者による協議が整えば、全国どこでも実施可能となり、2025年現在も貨客混載に取り組む企業が増加しています。
制度改正前(2017年9月1日以降) | 制度改正後(2023年6月30日以降) | |
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乗合バス | 貨物自動車運送事業許可を取得した上で、荷物を運ぶことが可能。(350kg未満の荷物を運ぶ場合は、道路運送法第82条に基づき許可不要) | 変更なし |
貸切バス | 貨物自動車運送事業許可を取得した上で、荷物を運ぶことが可能(※過疎地域に限る)。 | 貨物自動車運送事業許可を取得した上で、荷物を運ぶことが可能(※全国で実施可能)。 |
タクシー | ||
トラック | 旅客自動車運送事業許可を取得した上で、旅客を運ぶことが可能(※過疎地域に限る)。 | 旅客自動車運送事業許可を取得した上で、旅客を運ぶことが可能(※全国で実施可能)。 |
貨客混載は、車両の稼働効率が上がり、輸送コストの削減やCO₂排出量の抑制につながるメリットがあります。
物流業界だけでなく、地域の公共交通を維持・活性化させる新たな手段としても注目されています。
参考:
・貨客混載を通じた自動車運送業の生産性向上について|国土交通省
・貨客混載制度の実施区域の見直し(PDF)|国土交通省
貨客混載が導入された背景
貨客混載が導入された背景には、深刻な人手不足と輸送コストの増加、さらに地方の公共交通の衰退など、さまざまな課題があります。
特に物流業界では、働き方改革の関連法による「2024年問題」も影響し、2030年には日本の輸送能力が9億トンも低下すると予測されています。
そのため、効率的な輸送体制の構築が急務となっており、その過程で貨客混載が注目を集めました。
また、環境意識の高まりから、CO₂削減が社会的責任として求められるなか、既存の公共交通を活用する貨客混載は、持続可能な社会づくりに貢献する手段として期待されています。
2. 貨客混載の4つのメリット
貨客混載とは、貨物(モノ)と旅客(ヒト)を同じ車両で同時に運ぶ仕組みであり、地域の物流と移動手段を効率的に両立する手段としても注目されています。
近年、ドライバー不足や物流の効率化が求められるなかで、貨客混載は社会的にも経済的にも多くのメリットをもたらします。
そこで本章では、貨客混載の代表的な4つのメリットを紹介します。
物流コストを削減できる
既存の公共交通機関を活用することで、新たに貨物専用車両を用意する必要がなくなるため、事業者は物流コストの大幅な削減が可能です。
さらに、高騰しているガソリン代や人件費などの経費を一本化できるため、特に地方の小規模事業者にとっては、コスト効率の良い物流手段として高い評価を得ています。
物流の効率化が向上する
貨客混載により、座席の空きスペースや、トラックドライバーの待機時間を有効活用できるため、旅客車両と貨物車両の両方の稼働率の向上が期待できます。
さらに、以前は持て余していた時間やルートが最適化されたことで、地方では荷物の配送スピードが従来よりも改善されたケースもあります。
貨客混載はサービス品質の向上にも直結するため、物流業界全体のパフォーマンス向上に役立つと考えられています。
ドライバーの負担を軽減できる
物流業界では特に、ドライバー不足やドライバーの高齢化が大きな課題です。
しかし、貨客混載の導入で、1人の運転手で「ヒト」と「モノ」の両方を運べるため、ドライバー不足を解消する手段として有効であり、さらにドライバーの業務負担も軽減できます。
ドライバーの長時間労働や過密スケジュールの回避にもつながり、働き方改革や労働環境の改善にも役立つと考えられています。
CO2排出量を削減できる
車両の効率的な活用により、無駄な走行を削減できるため、CO2排出量の抑制が可能です。
貨客混載は、環境負荷を抑えた物流システムとして、持続可能な社会の実現に向けた重要な一歩となります。
特にカーボンニュートラルが求められる現代において、貨客混載に取り組む意義は非常に大きいと言えるでしょう。
また、貨客混載は、SDGsが掲げる17の目標のうち「労働や雇用における格差・環境の改善」「温室効果ガス(CO2)の削減」「持続可能な産業化や消費・生産」を達成する取り組みとしても期待されています。
3. 貨客混載の3つのデメリット
貨客混載は、物流と旅客輸送の効率化を実現できる一方で、いくつかのデメリットも存在します。
特に、運用面での課題が取り組みを広げる際の障壁になると考えられています。
そこで本章では、貨客混載を導入する際に注意すべき3つの主なデメリットについて解説します。
輸送量に限度がある
貨客混載は、主に旅客用の車両を活用するため、貨物スペースに制限があります。
特に、タクシーやバスはトランクが小さいため、大量の荷物を一度に運ぶことは難しく、大型商品やかさばる荷物の輸送には向いていません。
そのため、一定量以上の荷物を扱う事業者にとっては、十分な輸送能力を確保できず、業務に支障をきたす可能性があります。
輸送に関わる人員が増える
貨客混載では、旅客と貨物の両方を扱うため、従来よりも対応業務が増える可能性があります。
たとえば、消費者宅まで荷物を届ける配送会社との連携や、荷物の積み下ろしや運行調整を行う人員が別途必要になる可能性があり、現場負担の増加が予想されます。
導入のやり方次第では、コスト削減を目指すはずが、かえって人件費や手間が増加する懸念もあるため、事前に現場の状況や人員配置を考慮した導入方法を検討する必要があるでしょう。
荷物到着までに時間を要する可能性がある
旅客輸送が優先される貨客混載では、荷物の配送が旅客の乗降ルートや時間に左右される可能性があります。
また、積み替え作業や運行調整などで、さらに時間を要する場合も考えられるでしょう。
従来のトラック輸送よりも配送時間が延びるケースがあり、時間指定が必要な配送には向いていない場合があります。
特に都市部以外の地域では、運行本数の少なさも配送の遅れにつながる可能性があります。
貨物優先のスケジュールは立てられないことを前提にした輸送計画が必要です。
4. 物流業界における貨客混載|5つの導入事例
物流業界では、人手不足やコスト増加への対応策として「貨客混載」が注目を集めており、新幹線、電車、バス、タクシーなどの旅客輸送事業者で導入されています。
近年はさまざまな業種で取り組みが広がっており、貨客混載の車両に乗車したことがある方も増えています。
取り組みが広がる一方で、貨客混載の車両に乗車した際のルールや到着時間への影響など、疑問を持つ方もいるでしょう。
そこで本章では、各旅客輸送事業者で行われている貨客混載の導入事例を5つ紹介します。
将来的に、当たり前になるであろう貨客混載の仕組みや利便性について考えるきっかけにしてみてください。
タクシーの貨客混載
北海道北斗市では、タクシー事業者による貨客混載が実施されており、高齢者や免許を持たない人への支援として注目されています。
生活用品や医薬品を対象に、週2〜3回、市内全域で配送が行われ、1回あたり約50個の荷物を扱っています。
地域 | 北海道北斗市(人口:44,336人) |
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実施事業者 | 地域のタクシー事業者 |
運送品目 | 生活用品、医薬品など |
配送頻度 | 週2〜3回 |
荷物の取扱量 | 1回あたり約50個 |
タクシー事業者は、生活用品の需要の高さを感じており、物流事業者や荷主も高齢者支援に役立つとして期待を寄せています。
住民からも「将来的に買物や通院が困難になることへの不安」を理由に、貨客混載への要望が多く、今後は制度の柔軟化や価格設定の工夫が重要とされています。
コミュニティバスの貨客混載
宮崎県西米良村では、ヤマト運輸・佐川急便・日本郵便・日本公営の4社が共同で、コミュニティバス(村営バス)を活用した貨客混載事業「カリコボーズのホイホイ便」を運行しています。
ヤマト運輸・佐川急便・日本郵便の3社が荷物配送に関連する業務を連携して行い、日本公営は技術支援を担当しています。
西米良村の中心部である村所地区から小川地区までの21kmを貨客混載で運行しており、終点の小川地区(人口65人38世帯)では、村の委託配達員が各戸へ荷物を届ける仕組みです。
地域 | 宮崎県西米良村(人口:961人) |
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実施事業者 | ヤマト運輸・佐川急便・日本郵便・日本公営 |
運送ルート | 村所地区から小川地区までの21km(小川地区では委託配達員が個別配送) |
配送頻度 | コミュニティバスの運行に合わせる |
用途 | 村内便(住民と事業者間の荷物輸送)にも活用 |
この取り組みは、高齢化・人口減少がすすむ地域での持続可能な配送モデルの構築を目指しており、コミュニティバスの活用で環境負荷の低減や、見守り機能の付加価値も提供しています。
さらに、西都市〜西米良村間では、すでに別の貨客混載も実施されており、西米良村は複数の貨客混載が行われる先進地域となっています。
参考:全国初、宮崎県西米良村にて佐川急便、日本郵便、ヤマト運輸3社との村営バスによる貨客混載を3月23日から開始します|ヤマトホールディングス
高速バスの貨客混載
2021年12月より、近鉄バス・宮城交通・福山通運・南東北福山通運の4社は、夜行高速バス「フォレスト号」(大阪〜仙台間)を活用した貨客混載事業を開始しました。
バスの空きスペースに荷物を積載し、両都市間を夜間輸送、翌朝には荷物が各地に配達されます。
実施事業者 | 近鉄バス・宮城交通・福山通運・南東北福山通運 |
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運行ルート | 大阪〜仙台間(夜行高速バス「フォレスト号」) |
運送品目 | 工業製品、部品、日用品、衣料品など |
配送頻度 | 毎週月〜木曜の積載(祝日除く)/到着は翌朝(火〜金) |
この取り組みは、バスの空きスペースの有効活用・収益化や、トラックの配送時間の短縮、ドライバー不足の解消などに効果があるとして、期待されています。
また、既存の交通機関を活用しているため、新たな投資なしで運行しており、CO₂排出量削減や高速バス路線維持といったSDGsにも貢献するモデルです。
乗客と貨物を一体で運ぶ試みは、今後の持続可能な物流・交通モデルとして注目されています。
鉄道・在来線の貨客混載
JR東日本は、列車の定時性・速達性・環境性能を活かした新たな荷物輸送サービス「はこビュン」を2021年10月から本格展開しています。
既存の在来線や特急、新幹線を活用し、事前予約した企業や地域の特産品や生鮮品をスピーディーに輸送できます。
輸送先はエキナカからエキソトまで拡大しており、地方から首都圏、首都圏から地方への定期輸送も強化中です。
実施事業者 | JR東日本(はこビュン・はこビュンQuick) |
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運行ルート | 東京〜仙台、新潟、新青森、金沢、新函館北斗など |
運送品目 | 生鮮食品、日本酒、花、精密機械部品など |
取り組み内容 | 客室活用輸送、大宮物流拠点化、在来線活用、地方催事支援など |
今後の展開 | 商品・エリア拡大、定期輸送強化、地方創生・都市間物流の促進など |
大宮駅を物流拠点とする試みや、JR各社との連携もすすめており、今後は取扱商品の拡大や地域創生を目指し、物流の新たな選択肢として活躍が注目されています。
事前予約が不要な「はこビュンQuick」は、30分前までの受付で当日輸送が可能です。
参考:鉄道ネットワークを活用した荷物輸送サービス「はこビュン」を事業化し様々な社会課題解決に貢献します(PDF)|JR東日本
新幹線の貨客混載
JR九州は、九州新幹線を活用した「貨客混載」を2021年から本格運行しており、2025年度から、荷物の積載スペースを広げるなど、事業拡大を行っています。
本格運用当初は旧車販準備室を使い、博多〜鹿児島中央間で特産品や精密機器を輸送する「はやっ!便」を展開しており、現在、客室スペースの活用による輸送能力の拡大と、JR各社との連携を強化しています。
これにより、北海道、東日本、東海、西日本、九州のJR各社で貨客混載のサービス網が整うことになりました。
実施事業者 | JR九州(はやっ!便・はやっ!便プラス・ウルトラはやっ!便) |
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運行ルート | 博多〜鹿児島中央間(九州新幹線) |
運送品目 | 特産品、生鮮食品、精密機器、輸血パックなど |
連携先 | 佐川急便(現在、高速バスや在来線との実証実験も実施中) |
今後の展開 | 客室スペースの活用・JR各社との連携強化 |
JR九州は、開始当初から佐川急便との協業を行っており、現在、事業拡大を見据えて、在来線や高速バスを活用した実証実験も行っています。
貨客混載を導入した背景には、人口減やトラック運転手不足(2024年問題)、固定費の高さといった経営課題があり、人の流れに依存しない新たなビジネスモデルとして期待されています。
参考:
・九州新幹線を使用した貨客混載事業を開始します(PDF)|JR九州
・JR九州、「貨客混載」拡大へ 25年度、新幹線の客室活用|Yahoo!ニュース
5. 貨客混載の3つの課題
貨客混載は、鉄道やバスなどの旅客輸送と貨物輸送を一体化する新しい物流手段として注目されています。
しかし、導入や拡大にあたって以下の3つの課題が存在しており、改善や調整が急務となっています。
- ・安全性の確保
- ・法規制の整備
- ・物流管理の複雑さ
貨客混載が物流業界に貢献する将来を見据え、「ヒト」も「モノ」も安全に移動するために、どのような措置が必要なのかをみていきましょう。
安全性の確保
貨客混載では、人と貨物が同じ車両に乗るため、安全性への配慮が欠かせません。
特に精密機器や液体、重量物などを運ぶ際には、列車の振動や衝突による破損リスクを最小限にする設計と運用が求められます。
また、非常時の避難経路や積載物による火災・事故の対策など、乗客の命を守るためのルール整備も必要です。
貨物と乗客が共存する空間だからこそ、徹底した安全管理が課題となっています。
法規制の整備
貨物輸送と旅客輸送では、それぞれ異なる法規制が存在します。
2017年の規制緩和の際に、鉄道事業法や道路運送法、海上運送法がそれぞれ一部改正されましたが、貨客混載の全国拡大とともに、各法規制の整備が求められています。
現行の法規制では、事故発生時の責任の所在や、保険適用範囲の明確化などが不十分であり、明確なガイドラインや運用基準を設置したり、行政手続きや許認可の簡略化も重要とされています。
物流管理が複雑
貨客混載では、従来の貨物輸送に比べて配送ルートやスケジュール管理が複雑になります。
旅客ダイヤに合わせた運行が求められるため、荷物の積み下ろし時間や場所が制限されるケースもあります。
また、紛失や災害時における荷主との迅速な情報連携や、追跡システムの導入や開発など、ITを活用した高度な物流管理が必要です。
効率的な運用には、人手だけでなくシステム整備も重要なポイントとなります。
6. まとめ|貨客混載で物流と公共交通が変わる
本記事では、貨客混載の概要や導入の背景、メリットとデメリット、導入事例や今後の課題について詳しく解説しました。
貨客混載は、物流と公共交通が抱える課題を同時に解決する取り組みです。
地域交通の維持や排気ガスの削減、物流の効率化など、多くのメリットがある一方で、制度面や運用面での課題も残されています。
今後は制度整備が鍵となり、地域の交通インフラと物流網を見直す過程で、自治体や民間企業が連携し、新たなビジネスや雇用が生まれる可能性もあります。
事業者や行政だけでなく、乗客や地域住民も一緒になって、ヒトとモノが効率的かつ安心して移動できる社会の実現を目指していきましょう。