「不適切点呼」とは?点呼未実施との違いや罰則・違反事例をわかりやすく解説

近年、「不適切点呼」や「点呼の未実施」といった用語を耳にする機会が増え、運送業界を中心に大きな関心が寄せられています。
事業用自動車の運行において、運転者の安全確保は非常に重要であり、そのために「点呼」は欠かせない業務です。
しかし、点呼が適切に行われなければ、安全運行に支障が生じるだけでなく、法令違反として罰則の対象となる可能性もあります。
本記事では、ニュースで取り上げられることの多い「不適切点呼」とは具体的にどのような行為を指すのか、また、点呼を全く行わない「未実施」とは何が違うのかについて解説します。
さらに、不適切点呼や未実施が発覚した場合の罰則や違反事例、そして、不適切点呼や未実施を防ぐための対策についても紹介します。
運輸業界に携わる方はもちろん、点呼に関わる安全施策に関心のあるすべての方にとって、確認いただきたい内容です。
「不適切点呼」に関する理解を深め、安全運行の重要性を再認識し、法令遵守の徹底につなげていきましょう。
目次 / この記事でわかること
1. 不適切点呼 とは?点呼未実施との違い
「点呼」は、事業用自動車の運行において、運転者の安全確保と法令遵守のために非常に重要な業務・仕組みです。
しかし、点呼が適切に行われない場合、「不適切点呼」や「点呼未実施」として問題視されます。
似たような言葉で分かりにくいですが、その意味合いはそれぞれ異なります。
本章では、それぞれの違いを明確にしていきましょう。
そもそも点呼とは?
そもそも点呼とは、事業用自動車の運行者が業務を開始する前、または終了した後に、運行管理者や補助者などが対面で行う「確認作業」のことを指します。
運行者の健康状態や車両の状態、必要な携行品などを確認し、安全な運行を確保することが目的です。
点呼は、「道路運送車両法」や「貨物自動車運送事業法」などの法令で義務付けられており、その実施状況や記録は厳格に管理するよう定めています。
参考:
・貨物自動車運送事業輸送安全規則 |e-Gov 法令検索
・点呼は安全運行の要(PDF)|国土交通省 中部運輸局
不適切点呼と点呼未実施の違い
続いて「不適切点呼」と「点呼未実施」の違いについて確認します。
区分 | 内容 | 違反の程度 |
---|---|---|
不適切点呼 | 点呼は行ったが、内容が法令で定められた基準を満たしていない(記録不備やアルコールチェック未実施など) | 内容により行政処分や罰則の対象となる。 |
点呼未実施 | 点呼そのものが全く行われていない(対面ではなく電話やそのほかの方法で実施した場合(やむを得ない状況を除く)/補助者の要件を満たさない者が実施した場合など) | 重い違反とみなされ、事業停止処分や運行許可取り消しなどの重い行政処分、または罰則対象となる。法令違反として明確に判断される。 |
「不適切点呼」とは、点呼自体は実施されたものの、運転者の健康確認やアルコールチェックの未実施、点呼記録簿の記載漏れ・虚偽など、法令で定められた基準を満たさない状態を指します。
つまり、形式上は点呼が行われていても、その内容が伴っていない場合は「不適切点呼」とみなされます。
一方、「点呼未実施」とは、そもそも点呼そのものが全く行われていない状態を指します。
運転者が業務を開始する前や終了後に、運行管理者などによる確認作業が一切行われなかった場合がこれにあたります。
また、運転者が遠隔地にいるなどのやむを得ない状況を除き、対面ではなく電話などで実施した場合や、点呼執行者の資格を持たない者が実施した場合は「点呼未実施」に該当します。
これらは、法令で義務付けられた点呼を全く行っていないため、不適切点呼よりも重大な違反とみなされます。
2. 不適切点呼・点呼未実施だった場合の罰則
事業用自動車の運行において、点呼は法令で義務付けられた重要な業務です。
もし点呼が不適切に行われたり、全く実施されなかったりした場合、運行会社や運行管理者には厳しい罰則が科せられる可能性があります。
本章では「不適切点呼」と「点呼未実施」が発覚した場合の処分内容について、具体的に解説します。
※本内容は「一般貸切旅客自動車運送事業者」に対する行政処分基準についての記載です。乗合バスやタクシーなど、他の事業形態では処分日数や内容が異なる場合があります。
参考:一般貸切旅客自動車運送事業者に対する行政処分等の基準 |国土交通省関東運輸局
不適切点呼・未実施の場合の処分内容
点呼の実施義務違反があった場合、以下の行政処分が科せられることがあります(一般貸切旅客自動車運送事業者の場合)。
- 点呼の未実施:初違反で40日車、再違反で80日車
- 不適切な点呼:初違反で20日車、再違反で40日車
- 軽微な違反など:初違反で警告、再違反で10日車
- 飲酒運転防止にかかる点呼実施義務違反:初違反で100日車、再違反で200日車
「日車」とは、車両の使用停止期間を日数で表したものです。
例えば、10台の車両を所有している事業者が40日車の処分を受けた場合、1台を40日間、または2台を20日間、運行停止にするなど、合計で40日分の車両運行停止となります。
これは、事業の運営に大きな影響を与える可能性がある罰則となっています。
また、悪質な違反や、過去にも同様の違反がある場合は、さらに重い処分が科せられることもあります。
例えば、事業許可の取り消しや、運行管理者資格の剥奪などが考えられます。
記録違反をした場合の処分内容
点呼の実施だけでなく、その記録も法令で義務付けられており、点呼記録簿への虚偽記載や記載漏れ、改ざんなどがあった場合も行政処分の対象となります。
具体的な処分内容は以下のとおりです(一般貸切旅客自動車運送事業者の場合)。
- 点呼記録簿への虚偽記載・改ざん:初違反で60日車、再違反で120日車
- 記録すべき事項の記載漏れ・不備:初違反で警告、再違反で10日車
- 点呼記録の録音・録画保存義務違反:初違反で警告、再違反で10日車
記録違反の内容や程度によって処分内容は異なりますが、虚偽記載や改ざんなど悪質な場合は、点呼実施義務違反よりも重い処分が科されることもあります。
アルコールチェッカー(検知器)未設置の場合の処分内容
事業用自動車の運行においては、運転者の飲酒運転を防止するため、アルコールチェッカー(検知器)を用いた酒気帯び確認が義務付けられています。
アルコールチェッカーの未設置や未使用は、飲酒運転防止にかかる点呼実施義務違反として「100日車」の重い処分と位置づけられているのが特徴です。
2024年4月以降は、アルコールチェック時の写真撮影や記録保存の義務も追加され、これらの違反も処分対象となります。
飲酒運転は重大な事故につながるため、事業者はアルコールチェッカーの適切な管理・使用を徹底する必要があります。
関連記事では、アルコールチェック義務化に伴う適切な運用方法や、義務化の対象企業、詳しい罰則内容について紹介しています。
法令を遵守した点呼が実施できるように、あわせて参考にしてください。
3. 不適切点呼の違反事例と起こりがちなパターン
不適切点呼は、法令で定められた点呼の基準を満たしていない状態を指しますが、具体的にどのような事例があるのでしょうか?
本章では、実際に起こった違反事例や、不適切点呼として扱われる「起こりがちなパターン」について解説します。
不適切な点呼は、企業の安全管理体制に対する信頼を失墜させるだけでなく、重大な事故につながる可能性も秘めています。
事業者は、これらの事例を参考に、自社の点呼体制を見直し、もし不備があれば迅速に改善していく必要があります。
記録の虚偽や記載の抜け漏れ
ある大手運送事業者では、運転手への点呼が実際には行われていないにもかかわらず、点呼記録簿に「実施した」と虚偽の記載をしていたことが明らかになりました。
さらに、飲酒の有無や健康状態など、記録すべき事項の記載漏れも多数確認されており、この問題は国土交通省の監査で発覚し、事業者には厳しい行政処分が検討されています。
点呼記録簿の虚偽記載・記載漏れは、運行管理体制の不備や記録管理の問題とされ、点呼実施義務違反として行政処分の対象になります。
点呼実施者の資格不備
ある運送会社では、運行管理者の資格を持たない従業員が点呼を行い、記録していたことが判明しました。
資格不備のまま点呼を実施したことで、国土交通省から行政処分を受ける事態となりました。
この背景には、「運行管理者の人員不足やシフト管理の甘さ」があり、無資格者による点呼が常態化していたことが指摘されています。
「形だけ」の点呼
あるバス会社では、点呼が雑になっており、実際には運転手の健康状態や酒気帯びの確認を十分に行わず、形式的なやりとりだけで済ませていたことが発覚しました。
その後、運転手が酒気帯び運転で摘発され、会社の点呼体制に重大な問題があったとして行政処分が科されました。
形だけの点呼は、「安全への意識の低下」や「慣れ」から生じやすく、大きなリスクとなります。
従業員の意識改革が必要であり、時間をかけて見つめ直す必要があります。
アルコールチェックの不備と飲酒規定違反
大手航空会社グループで運航乗務員のアルコール検査や飲酒規定に関する不適切な事案が発生しました。
空港での監査の際、過去1年間のアルコール検査記録の一部が確認できず、検査の未実施や記録の消失が多数判明しました。
また、乗務員が飲酒規定を守らなかったことで、乗務できなくなり、複数の便が出発遅延となる事態も発生しています。
これらの背景には、「アルコール検査の運用ルールが現場に十分浸透していなかったこと」や、「記録管理の徹底不足」がありました。
国土交通省はこの事案を受けて、事業者に対し厳重注意や業務改善勧告を行い、再発防止策の徹底を求めました。
4. 不適切点呼や未実施を防ぐための対策
ここまでの解説のとおり、不適切点呼や点呼未実施は、法令違反であり、事業運営に大きなリスクをもたらします。
これらの問題を防ぐためには、具体的にどのような対策を取るべきなのか。
本章では、効果的な対策について解説します。
社内教育と運行管理者の役割強化
点呼の重要性や法令遵守の意識を従業員全体に徹底するためには、定期的な「社内教育」と「運行管理者の役割強化」が欠かせません。
特に、点呼の具体的な手順や、記録の重要性、違反した場合の罰則などを周知することが重要です。
また、運行管理者は、点呼の実施状況を適切に監督し、問題点があれば速やかに改善する必要があります。
運転者の健康状態や勤務状況を把握し、無理な運行がないように配慮することも重要な役割です。
教育方法として、パソコンやスマートフォンを介して動画で学習する「eラーニング」や、数人で議論を交わすなどの「グループワーク」がおすすめです。
社内教育では、単にルールを押し付けるのではなく、「なぜ点呼が重要なのか」「安全運行にどうつながるのか」を理解させ、運行管理者だけでなく、すべての従業員が安全意識を持ち、互いに注意喚起できるような風土づくりが求められます。
点呼のデジタル化と記録管理の工夫
不適切点呼の対策として、仕組みづくりが最も重要です。
その上で、点呼のデジタル化は、不適切点呼や記録の改ざんなどを防ぐための非常に有効な手段となります。
IT点呼システムを導入することで、点呼の実施状況や記録をリアルタイムで管理でき、記録の改ざんや紛失のリスクを大幅に低減できます。
また、アルコールチェッカーと連携することで、酒気帯び運転を未然に防ぐことも可能です。
測定結果が自動的に記録され、クラウド上で管理されるため、記録の信頼性が高まります。
別の手段として、インターロックなどを活用して強制的に点呼を促す方法もありますが、事業用自動車の台数ごとに設置が必要なことから、費用や設置までの労力がかかる点が懸念とされます。
まずは、ソフトウェアで仕組みと管理体制を整え、従業員への社内教育を段階的に進めていくのが基本といえるでしょう。
5. IT点呼と遠隔点呼|それぞれの特徴と違い
点呼業務の効率化や正確性を高めるために「IT点呼」や「遠隔点呼」といった方法が注目されています。
これらの方法は、従来の対面点呼とは異なり、情報通信技術(IT)を活用して点呼を実施するものです。
IT点呼は、事業所に設置されたシステムを通じて行い、遠隔点呼は、事業所から離れた場所からカメラやマイクを備えた情報通信機器を用いて行います。
基本的には同じような点呼の仕組みですが「導入条件」や「実施できる範囲」に違いがあります。
IT点呼と遠隔点呼の詳しい内容、導入のメリットや条件、導入方法については、以下の関連記事で詳しく解説しています。あわせてご覧ください。
関連記事:
『IT点呼とは|条件や導入・運用方法、役立つ補助金制度を紹介』
『遠隔点呼とは?導入のメリットや制度改定のポイント・要件や申請手順・補助金情報を紹介』
アルキラーNEXで点呼業務の効率化と法令遵守の強化
パイ・アールではIT点呼に対応したクラウド型アルコールチェックシステム「アルキラーNEX」を提供しています。
アルキラーNEXは、アプリを通じてアルコールチェックから点呼記録までを一括で管理できるシステムです。
点呼記録簿は自動生成されるため、手書きや別システムでの記録作業が不要になります。
さらに、アルキラーNEXでは、キーボックスやアルコールインターロックとの連携にも対応しており、安全管理をより強化できます。
クマヒラ社の「SPLATS KEY」と連携することで、アルコールチェックの結果が「0.00mg/l」でない限り、車両の鍵を取り出せないように制御できます。
また、ユビテック社の「D-Drive」との連携では、アルコールチェックの結果が「0.00mg/l」でない限り、車両のエンジンが始動できない仕組みを構築できます。
これらの外部サービスとの連携により、飲酒運転を未然に防止し、より高い水準での法令遵守と安全対策を実現できます。
6. まとめ|不適切な点呼や未実施をデジタル化で防止しよう
本記事では、事業用自動車の運行における「点呼」について、「不適切点呼」と「点呼未実施」の違いや罰則、違反事例、対策まで解説しました。
点呼は安全運行に欠かせませんが、不適切に行われると法令違反となり、厳しい罰則の対象となります。
不適切点呼は形式的な点呼であり、点呼未実施は点呼そのものが行われていない状態です。
対策として、社内教育や運行管理者の役割強化に加え、IT点呼システムの導入などデジタル化が有効であり、デジタル化により、点呼記録の信頼性向上や酒気帯び運転の防止に繋がります。
本記事を通じて、点呼の重要性や適切な運用方法について理解が深まり、自社の安全管理体制を見直すきっかけとなれば幸いです。