社用車管理を徹底すべき理由|義務項目と業務内容・事故のリスク対策まで解説

社用車を運用する企業にとって、社用車管理は単なる業務の一環ではなく、法令遵守や事故防止、従業員の安全を守るために欠かせない重要な取り組みです。
適切な管理を怠ると、重大な交通事故や企業への厳しい責任の追及といったリスクが想定されます。
そこで本記事では、社用車管理を徹底すべき理由をはじめ、社用車管理で企業が行うべき義務項目、具体的な社用車管理業務の内容、義務化の対象企業、事故のリスク対策まで詳しく解説します。
社用車管理業務を見直したい方や、社用車管理で重視すべき項目が分からないという方は、ぜひ最後までご覧ください。
目次 / このページでわかること
1. 【概要】社用車管理の基礎知識
社用車管理は、ドライバーの安全を確保し、事故のリスクを軽減するために必要な取り組みです。
しかし「どのような業務なのか?」「そもそも社用車管理に力を入れるべきか?」など、疑問に感じることもあるでしょう。
そこでまずは、社用車管理の全体像をイメージしやすくするために、社用車の定義や社用車管理の概要について解説します。
そもそも社用車とは?
社用車とは、企業や個人事業主が業務目的で保有・使用する車両のことを指します。
営業活動、配送業務、社員送迎など、用途はさまざまです。
社用車は、購入とリースの2つの入手方法があり、どちらの場合も車検証上の使用者欄は会社名義(事業主名)で登録されます。
リースの場合、自賠責保険や税務上の管理はリース会社が担当するため、節税効果が期待できます。
社用車の導入に必要な対応や、メリット・デメリットについて、以下の関連記事で詳しく解説していますので、あわせて参考にしてください。
社用車管理とは?
社用車管理とは、従業員と車両の安全確保や、コストの最適化を目的とした、点検、運転者管理、利用ルール整備などの総合的な取り組みを指します。
社用車の私的利用の可否を取り決めることも社用車管理のひとつであり、業務の内容は多岐にわたります。
特に近年では、道路交通法の改正によりアルコールチェックの義務化も進み、管理体制の強化が求められています。
事故防止と企業の社会的信頼向上にも直結するため、適切な社用車管理は欠かせません。
2. 社用車管理を徹底すべき4つの理由
社用車管理を徹底することは、リスク管理において重要ですが、具体的にどのようなメリットをもたらすのか把握しておきましょう。
本章では、社用車管理の重要性を理解するために、「社用車管理を徹底すべき4つの理由」について解説します。
従業員の安全を確保できる
従業員の安全を守るためには、社用車の適切な管理が重要です。
定期的な点検やメンテナンスを行い、常に車両を良好な状態に保つことで、故障や事故を防止できます。
また、社用車の利用ルールを決め、従業員に対して業務前後の点呼で体調を確認したり、安全運転研修を実施することで、安全意識の向上にもつながります。
事故のリスクを低減できる
日頃から車両の状態を把握し、適切な管理とメンテナンスで安全を守ることは、企業が果たすべき責任のひとつです。
社用車管理を怠ったことが原因で、交通事故や交通違反が発生した場合、周囲への影響も大きく、企業の信用にも関わります。
令和4年度における事業用車両の交通事故では、安全不確認や漫然運転、脇見運転が原因として多くみられます。
ヒューマンエラーや車両トラブルを未然に防止するために、日常点検や定期点検、安全運転教育など、適切な社用車管理を行い、事故のリスクを低減することが重要です。
法令遵守を徹底できる
道路交通法や安全衛生法など、社用車管理には多くの法令が関わっています。
特に2022年4月1日の道路交通法改正により、白ナンバーの事業者にもアルコールチェックの義務化が適用され、企業に対する管理責任も重くなっています。
社用車管理を適切に行い、法令遵守を徹底することが、コンプライアンス強化につながります。
コストを最適化できる
徹底した社用車管理は、コストの最適化に有効です。
定期点検を怠らないことで、車両の寿命をのばし、長期的にみて修理費を大幅に抑えることが可能です。
また、車両管理システムなどを活用して、効率的な走行ルートを指示したり、収集したアイドリング情報をもとに、従業員に運転指導を行うことで、燃料費の削減に取り組めます。
車両の通算走行距離も短縮できるため、資産価値の維持や次回購入費の節約にも効果的です。
徹底した社用車管理は、予算を有効に活用するための大切な取り組みと言えるでしょう。
3. 社用車管理|3つの主な業務内容
社用車管理業務は多岐にわたるため、「どこまでが対象なのか」「どのように進めればよいのか」疑問に感じる方も多いのではないでしょうか。
そこで本章では、社用車管理業務の全体像を把握するために、業務の3つの柱である「ドライバー管理」「車両管理」「運行管理」について、それぞれ詳しく解説します。
社用車の効率的な運用を図るために、3つの社用車管理業務をしっかり押さえましょう。
ドライバーの管理
従業員の健康状態や運転技術、安全意識を適切に把握し、必要な教育や指導を行うことは社用車管理における重要な業務です。
特に、車両を使用する従業員に対しては、以下のような管理業務を行う必要があります。
- 業務前後の点呼、アルコールチェックの実施
- 従業員の健康診断
- 初任運転者における講習会や研修への参加
- 高齢運転者における適性診断の受診や運転指導の実施
- 長時間労働の防止
- 運転免許証の有効期限の確認
- 運転台帳の管理
- 安全運転教育の実施 など
業務前後の点呼やアルコールチェック、初任運転者の講習会参加や、高齢運転者の適性診断の受診は法律で義務化されているため、安全規則や運輸規則に則って実施することが重要です。
義務化の項目を怠った場合、管理者に対して是正措置命令や解任命令が下されたり、事業所に対して、警告や10〜200日間の車両の使用停止などの行政処分が科される可能性があります。
車両の管理
車両の管理では、以下のような業務を適切に行うことが求められます。
- 日常点検の実施
- 定期点検(法定点検)の実施
- 車検の実施
- 整備やメンテナンスの実施
- 自動車保険の加入や更新
- 車両管理台帳の作成と管理
- 適切な車両台数の把握 など
社用車管理業務では、点検・整備・保険の更新などを計画的に行い、常に安全な状態で社用車を維持することが求められます。
適切に車両を管理することで、最適な運用台数を把握でき、燃料費や修理費なども抑えることが可能になるため、大幅なコスト削減にも貢献できます。
事業者における定期点検の時期や項目数、点検を怠った場合の罰則について関連記事で解説していますので、あわせて参考にしてください。
運行管理
運行管理では事務的な業務が多く、以下のような業務内容が含まれます。
- 運転日報の記録
- 日常点検、アルコールチェックの記録
- 勤務間インターバルの確保
- 長時間労働や残業をさせない運行計画の作成 など
運行管理では、車両の使用状況の把握や、効率的で無理のない運行計画の作成、運転時間や休息時間の把握と最適化を行うことが主要な業務です。
長年、運送業界における過労運転は問題視されており、死傷事故は後を絶ちません。
2024年6月から、トラックドライバーの労働時間の規制が強化されているため、企業や管理者は、適切に運行管理を行うことが求められます。
4. 社用車管理|義務化の対象となる事業者
社用車管理は、事故防止やドライバーの安全確保に欠かせない取り組みであり、一定の条件に該当する事業者には、事業所ごとに社用車管理が義務付けられています。
車両の区分 | 対象事業者 |
---|---|
事業用自動車(緑ナンバー、黄色ナンバー) | すべての事業者 |
自家用自動車(白ナンバー) | 乗車定員が11人以上の自動車を1台以上保有している事業者、またはそれ以外の車両を5台以上保有している事業者 |
原動機付自転車を除く自動二輪は1台につき、0.5台としてカウントされます。
白ナンバーの事業者の場合、車両保有台数によって社用車管理が義務化されます。
適切に社用車管理が行われない場合、管理者や事業者に対して罰金や行政処分などが科される可能性があるため、義務化の対象事業者は、法令遵守を徹底した社用車管理を実施しましょう。
5. 社用車管理における義務項目
社用車を使用する企業には、法律に基づきいくつかの義務が課せられています。
特に重要な項目として「安全運転管理者の選任」「車両点検の実施」「運転日報の記録と保管」「アルコールチェックの実施」の4つがあります。
社用車管理を行う際は、これらの義務項目を確実に履行することが重要です。
そこで本章では、4つの義務項目について詳しく解説します。
安全運転管理者の選任
社用車を一定台数以上使用する事業者は、事業所ごとに安全運転管理者の選任が義務付けられています。
これは「安全運転管理者制度」と呼ばれ、道路交通法第74条により定められた制度です。
安全運転管理者の選任が必要な事業者は以下のとおりです。
- 乗車定員が11名以上の自動車を1台以上保有している
- または自動車を5台以上保有している
(※原動機付自転車を除く自動二輪は1台につき自動車0.5台としてカウント)
さらに、20台を超えるごとに副安全運転管理者の選任も必要です。
安全運転管理者は、事業主に代わってドライバーの健康状態の確認や安全運転教育、アルコールチェックなどを実施し、事故防止に取り組まなければいけません。
車両点検の実施
社用車の点検は法律上の義務であり、車両使用者は自動車を保安基準に適合させるために適切な点検・整備を行う必要があります。
点検には「日常点検」「定期点検(法定点検)」「車検」の3種類があり、それぞれ異なる目的と頻度で実施されます。
日常点検はドライバーや安全運転管理者が簡易チェックを行い、定期点検や車検は、使用者である会社が整備工場などに点検を依頼し、国が定める基準を満たしているかを検査します。
特に事業用車両では、定期点検を怠ると30万円以下の罰金、車検切れで走行した場合は6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金、さらに違反点数6点が加算され、30日間の免許停止が科される可能性があるため、注意が必要です。
点検のスケジュール管理も重要な社用車管理業務なので、見逃しがないように、適切な管理を行いましょう。
運転日報の記録と保管
運転日報は、社用車を使用した従業員の氏名や運転時間、点呼やアルコールチェックの結果、走行距離などを記録する書類であり、従業員の業務状況や車両の使用状況を把握できます。
トラック(緑ナンバー)などの貨物運送業では、貨物自動車運送事業輸送安全規則より義務付けられ、乗車定員11人以上の車両を1台以上、または自家用自動車を5台以上使用する一般企業(白ナンバー)では、道路交通法施行規則により義務付けられています。
運転日報の保管期間は基本的に1年間です。ただし、労働基準法109条によると、労働関係に関する重要書類の保管期間は5年間と定められています(2020年の労働基準法改正の経過措置として当面は3年)。
紛失することがないように、最低3年間は保管しておくことが推奨されます。
運転日報の書き方について、以下の関連記事で解説しています。無料でダウンロードできるテンプレートも紹介していますので、ぜひ活用してください。
アルコールチェックの実施
安全運転管理者や運行管理者を設置する必要がある事業者には、アルコールチェックも義務化されています。
アルコールチェックは、管理者がドライバーに対して、運転前後の1日2回、「アルコールチェッカーによる検査」と「目視確認」の両方を実施する必要があります。
また、記録した内容は1年間保管しなければなりません。
アルコールチェックを怠った場合、是正措置命令や管理者の解任命令などの行政処分が下される可能性があり、飲酒運転が発覚した場合は、罰金などの刑事処分が科される可能性もあるため、管理者は徹底したアルコールチェックの実施を心がけましょう。
関連記事:
『アルコールチェック義務化の対象者|責任者(管理者)や自家用車のルールについても解説』
『アルコールチェックの確認者は誰?管理方法や業務内容、注意点を解説』
6. 社用車事故のリスク対策3つ
社用車を使用する以上、万が一の事故に備えたリスク対策は欠かせません。
特に重要なのが、「交通事故対応マニュアルの作成」「保険の加入状況のこまめな把握」「業務外で発生した事故への対応方針の整備」の3点です。
本章では、事故発生時に迅速かつ適切な対応を行うために、これら3つの詳しい内容について解説します。
交通事故の対応マニュアルの作成
事故が発生した際の対応をマニュアル(社用車管理規程)にまとめ、安全運転教育の一環として、従業員に周知することが重要です。
事故後の初動対応、警察や保険会社への連絡手順、上司への報告方法などを具体的にまとめておくことで、従業員の負担を軽減し、適切な処理が可能になります。
定期的にマニュアルを見直し、従業員への周知も忘れずに行いましょう。
保険の加入状況をこまめに把握
加入中の保険内容が適切かを定期的に把握することも、リスク対策の基本です。
任意保険だけでなく、自賠責保険の更新状況や補償内容をこまめに確認し、不備がないかをチェックしましょう。
また、車両の使用状況に応じたプランの見直しも重要です。
定期的に見直すことでムダな保険料を削減できるため、コストの最適化にもつながります。
万が一の際に十分な補償を受けとれるように、保険の加入状況はこまめに把握しましょう。
業務外で発生した事故の対応方法を決めておく
業務外での社用車事故に備えて、会社の対応方針も事前に決めておく必要があります。
「誰が修理費用を負担するのか」「保険適用の範囲はどうなるのか」など、あらかじめ社用車管理規定を作成し、明確にしておくことで、トラブルや混乱を防ぐことができます。
社用車管理規程の作成は義務ではありませんが、作成することで、万が一の事態に備えたリスクの低減が期待できるため、自社の運用方法に適した社用車管理規定を作成しましょう。
7. 社用車管理の業務負担軽減にはデジタルツールの導入がおすすめ
社用車管理業務は、点検記録や運転日報の作成、アルコールチェックの管理など、業務範囲が広く、担当者への負担も大きくなりがちです。
こうした負担を軽減するために有効なのが、デジタルツールの導入です。
車両管理システムやデジタコ、クラウド型アルコールチェッカーを活用すれば、点検記録や運転履歴の自動保存、アルコールチェック結果のデジタル管理が可能になり、作業効率が大幅に向上します。
さらに、リアルタイムでの車両状況の把握や、走行データに基づいた運転指導もできるため、安全管理の精度も高まります。
手作業による人的ミスや記入もれを防ぎ、コンプライアンス対応も強化できるため、今後の社用車管理にはデジタル化が不可欠と言えるでしょう。
8. まとめ|徹底した社用車管理で企業の社会的信頼を高めよう
本記事では、社用車管理の概要や徹底すべき理由、業務内容や義務項目、事故のリスク対策について解説しました。
社用車管理は、従業員の安全を守るだけでなく、企業の法令遵守やコンプライアンス対応、さらには事故やトラブルの予防にも直結する重要な業務です。
社用車の管理体制が整っていないことで起きた事故や違反は、企業の社会的信頼を大きく損なう可能性があります。
だからこそ、日々の点検・記録・教育を含む徹底した社用車管理が求められます。
本記事で紹介した内容を参考に、安全で安心な社用車の運用を心がけ、企業としての責任と信頼性を高めていきましょう。