運転中のヒヤリハット|事例や防止対策・事故を起こした場合の対応手順を紹介

運転中に「ヒヤッ」とした経験はありませんか?

重大な事故には至らなかったものの、一歩間違えば大きなトラブルになりかねない、いわゆる「ヒヤリハット」は、日頃の運転に潜むリスクを知らせる重要なサインです。

本記事では、ヒヤリハットが発生する要因や事例を紹介するとともに、ヒヤリハットを引き起こしやすい人の特徴や、社用車で交通事故を起こした場合の対応手順についても解説します。

安全運転の意識向上に、ぜひお役立てください。

1. ヒヤリハット|言葉の意味とは?

「ヒヤリハット」という言葉は、運転免許を取得している人であれば、一度は聞いたことがある言葉でしょう。

交通安全に関する教育資料や、企業での研修などにも取り入れられていますが、本質的な危険性までは浸透していないのが実情です。

まずはヒヤリハットの意味を正しく理解し、リスクへの意識を高めましょう。

そこで本章では、ヒヤリハットという言葉の意味を解説するとともに、運転や業務中の安全意識を高める目的で活用されているハインリッヒの法則について紹介します。

ヒヤリハットとは?

ヒヤリハットとは、「ヒヤリ」としたり「ハッ」としたような、事故には至らなかったものの危険を感じた場面を指します。

運転中のヒヤリハットは重大な事故につながる可能性が高く、ドライバーの命に関わるだけでなく、周囲の人を巻き込む危険性もあります。

運送業の場合、ヒヤリハットは運転中以外にも発生します。

例えば、「車両のバッテリーの点検中、工具が端子間に接触し、ショートして感電しそうになった」「積荷が崩れて下敷きになりそうになった」などのヒヤリハットが実際に発生しています。

運転中に関わらず、安全が求められる現場では、ヒヤリハットの蓄積が事故のきっかけとなるため、業務前後の点呼の際に、ヒヤリハットの報告や共有がきちんと行われるよう、意識づけすることが大切です。

また、ヒヤリハットは、労働災害を未然に防ぐための重要な情報源でもあり、企業の安全管理活動の一環として、日常的に収集・共有されるべきものです。

特に運送業や建設業など、安全性が強く求められる業種では、ヒヤリハットの報告制度を整備し、危険の芽を早期に摘む取り組みが重視されています。

参考:建災防方式「新ヒヤリハット報告」のすすめ(PDF)|建設業労働災害防止協会

ハインリッヒの法則

ハインリッヒの法則とは、アメリカの損害保険会社の安全技師であったハインリッヒが発表した法則です。

【ハインリッヒの法則(1:29:300の法則)】
「同じ人間が起こした330件の災害のうち、1件は重い災害(死亡や手足の切断等の大事故のみではない)があったとすると、29回の軽傷(応急手当てだけで済むかすり傷)、傷害のない事故(傷害や物損の可能性があるもの)を300回起こしている」という法則。

ほかにもハインリッヒは、「300回の傷害のない事故の背後には、数千の不安全行動や不安全状態がある」と指摘しています。

重要なのは数字の比率ではなく、「災害の背景には危険な場面が数多くある」ということであり、発生したヒヤリハットに対して、迅速に対策を講じることが大切です。

参考:ハインリッヒの法則(1:29:300の法則)|職場のあんぜんサイト(厚生労働省)

2. 事例5つ|運転時のヒヤリハット

運転中のヒヤリハットは、ほんの一瞬の油断や判断ミスから発生し、重大な事故を引き起こす可能性があります。

本章では、実際に多くみられるヒヤリハット事例を5つ紹介し、それぞれの原因や防止策について解説します。

自身の運転を見直すきっかけとして、日々の安全運転にお役立てください。

前方の車に追突しそうになった

前方車両が急停車した際、ブレーキが間に合わず追突しそうになるケースは、運転中のヒヤリハットとしてよくある事例です。

原因として、車間距離が短い、脇見運転、居眠り運転、スピードの出し過ぎなどが挙げられます。

防止策としては、十分な車間距離(一般道では2秒以上、高速道路では3秒以上の距離)をとり、前方への注意を怠らないことが重要です。

また、居眠り運転にならないように、日頃から十分な休息時間をとるように心がけ、体調が優れない時は、運転を控えたり、こまめに休憩をはさむことが大切です。

関連記事:『居眠り運転の罰則や違反点数は?事故を起こした時の対処手順も解説

歩行者や自転車と接触しそうになった

歩行者や自転車と接触しそうになる場面も、よくあるヒヤリハットのひとつです。

特に、夜間や見通しの悪い交差点や狭い道では、歩行者や自転車の発見が遅れがちになります。

「子供が狭い路地から飛び出してきた」「自転車がながらスマホをしながら車に急接近してきた」「バイクが車体のぎりぎりですり抜けしてきた」など、ヒヤリハットな場面は突然訪れます。

ドライバーは、「かもしれない運転」を心がけ、信号のない横断歩道や狭い道ではスピードを落とし、歩行者や自転車の動きに注意を払いましょう。

関連記事:『ながらスマホの罰則・罰金は?違反点数や厳罰化の背景・自転車の罰則内容も解説

車線変更で車と接触しそうになった

車線変更の際に、後方や死角にいる車両に気づかず、接触しそうになるヒヤリハットも多発しています。

急な進路変更や無理な割り込み、ミラーの確認不足、ウインカーを出さない運転は特に危険です。

サイドミラーと目視による安全確認を徹底し、十分なスペースがあることを確認してから車線変更を行いましょう。

また、車両の死角を把握することも、安全運転には欠かせません。

トラックの場合、車高と運転席が高い位置にあり、車体も大きく長いため、特に注意が必要です。

左側方と後方は、ドライバーの視界が限られるので、車線変更をする際は、目視やミラーでしっかり確認を行いましょう。

悪天候での急ブレーキやスリップ

雨や雪などの悪天候時は、路面が滑りやすく、急ブレーキによるスリップや制動距離の延長による事故のリスクが高まります。

路面が濡れていたり、凍結している場合、カーブを曲がりきれずに反対車線にはみ出し、対向車に衝突する可能性があります。

視界も悪化し、判断が遅れる可能性も考えられるため、スピードの出しすぎは禁物です。

悪天候時には、いつも以上に慎重な運転を心がけ、タイヤの溝やワイパーの点検も事前に行いましょう。

関連記事:『制動距離と空走距離の違いは?停止距離にどう影響するのか解説

ハンドルの誤操作

カーブでの操作ミスや、慌ててハンドルを切りすぎたことによる誤操作も、ヒヤリハットにつながる危険な場面です。

緊張や疲労によって判断が鈍ると、咄嗟の操作に誤りが生じやすくなります。

普段から無理のない運転姿勢を保ち、焦らず落ち着いてハンドル操作を行うことが重要です。

特に初心者ドライバーは、余裕を持った運転計画を意識しましょう。

また、慣れない車を運転する場合は、車内の配置を運転前に確認し、アクセルやブレーキの確認を行いましょう。

3. 運転時のヒヤリハットが発生する主な要因3つ

運転中に発生するヒヤリハットには、必ず何らかの要因があります。

要因は「人的要因」「車両要因」「環境要因」の3つに分けられ、それぞれが複雑に関係し合っています。

事故を防止するためには、ヒヤリハットの要因を正しく理解・分析することが重要です。

そこで本章では、3つの要因について詳しく紹介します。

人的要因

ヒヤリハットの中でも最も多くを占めるのが「人的要因」です。

人的要因は、ドライバー自身の不注意や判断ミス、集中力の低下、運転への慣れなどの漫然運転によって引き起こされます。

令和7年(2025年)に警察庁交通局が発表したデータでは、交通死亡事故に占める法令違反の中で、漫然運転の割合が最も高いことがわかっています。

長時間の運転や睡眠不足、スマートフォンの操作は、事故の大きな要因となるため、日頃から体調管理を行い、運転中は周囲の状況に注意を払うことが重要です。

参考:道路の交通に関する統計 / 交通死亡事故の発生状況及び道路交通法違反取締り状況等について|政府統計の総合窓口(e-Stat)

車両要因

ヒヤリハットは、車両の状態によって発生する場合があります。

例えば、ブレーキの効きが悪い、タイヤがすり減っている、ライトやウインカーが故障しているといった整備不良は、ヒヤリハットを招く原因になります。

特に、通勤で自家用車を利用する方や、業務で社用車を利用する方は、車両点検を怠らず、定期的に整備を行うことが大切です。

事業用車の場合、運転前の日常点検や、3ヶ月点検と12ヶ月点検の実施が法律で義務づけられており、定期点検の未実施で重大事故を起こした場合、ドライバーや事業者に重い罰則が科せられる可能性があります。

以下の関連記事では、事業用車や自家用車における、定期点検の項目数や費用、点検を実施しない場合のデメリットや罰則を詳しく紹介しています。定期点検の時期が迫っている方や、定期点検を受けたことがない方は参考にしてください。

関連記事:『車の定期点検(法定点検)をしないとどうなる?車検との違いや点検時期・費用を解説

環境要因

環境要因とは、天候や道路状況、時間帯など、ドライバー自身ではコントロールできない原因を指します。

雨や雪、霧などの悪天候は視界を悪化させ、スリップ事故の原因になり、夜間や早朝の運転は、歩行者の発見が遅れがちになり、ヒヤリとする場面も増加します。

また、災害や事故で渋滞が発生した場合、強引な割り込みや煽り運転、危険なすり抜けを行うドライバーが現れる可能性もあります。

普段利用しない道を運転する場合や、天候や時間帯など普段と異なる条件で運転をする際は、状況に応じて慎重な運転を心がけましょう。

関連記事:『煽り運転を通報するまでの流れ【後日は注意】|もし通報されたらどう対応するか解説

参考:交通事故-ヒヤリ・ハット事例|職場のあんぜんサイト(厚生労働省)

4. 運転時にヒヤリハットを起こしやすい人の特徴

ヒヤリハットは誰にでも起こり得ますが、ある特定の傾向を持つ人は、特に危険性が高くなると言われています。

運転時の性格や習慣、考え方は、一歩間違えると重大事故につながるため、ドライバーひとり一人が当事者意識を持つことが大切です。

そこで本章では、ドライバーの運転意識とヒヤリハットの関連性を解説するとともに、ヒヤリハットを起こしやすい人の特徴を紹介します。

短気・攻撃的になりやすい人

イライラしやすく、周囲の車や歩行者に対して攻撃的な態度を取る人は、ヒヤリハットを起こしやすい傾向にあります。

警察庁が管轄する自動車安全運転センターの調査では、攻撃的傾向を持つドライバーは、ヒヤリハットの体験者比率が、ほかの特徴を持つドライバーと比べて、最も高いと指摘されています。

車間距離を詰める、割り込みに強く反応するなどの行動は、冷静な判断を失わせ、事故のリスクを高めるため、感情をコントロールし、落ち着いた運転を心がけることが重要です。

特にストレスの多い日は、意識的に気持ちを落ち着け、深呼吸をするなどして冷静さを保ちましょう。

参考:ドライバーの運転意識とヒヤリ・ハット体験との関連に関する調査研究報告書(PDF)|自動車安全運転センター

注意力が散漫になりやすい人

「漫然運転」や「ながら運転」をしがちな人は、周囲の状況を見落としやすく、ヒヤリハットを引き起こしやすい傾向があります。

スマートフォンの操作や、考えごとをしながらの運転は非常に危険です。

運転中は運転に集中し、気が散るものは視界や手元から遠ざけるよう工夫しましょう。

特に長時間の運転や、高速道路など単調な道を運転する際は、定期的に休憩をとり、集中力を保つよう心がけましょう。

違反を容認する人

信号無視やスピード違反などの交通違反を「少しくらい大丈夫」と考える人は、事故のリスクが高くなります。

信号無視や一時不停止など、軽微な交通違反と認識されがちですが、重大事故につながる危険性があります。

法令を守ることは、安全運転の基本です。自分の判断で交通ルールを軽視せず、常に安全運転を意識しましょう。

関連記事:『信号無視による罰金や違反点数は?支払い方法や取り締まりが多い交通違反を解説

5. 企業が行うべき運転時のヒヤリハット防止策

交通事故のリスクを低減するためには、ヒヤリハットを発生させない取り組みが重要です。

企業が積極的にヒヤリハットの防止策を講じることで、従業員の安全意識を高め、結果として、重大な交通事故や、労働災害のリスクを減らすことができます。

そこで本章では、企業が取り組むべき運転時における、2つのヒヤリハット防止策を紹介します。

ヒヤリハット報告の仕組みを構築する

ヒヤリハットを防止するためには、従業員からの報告をスムーズに集める体制が必要です。

報告書の様式を統一し、スマートフォンやPCから簡単に提出できるようにすることで、報告のハードルを下げられます。

また、報告された事例は社内で共有し、再発防止に向けた教育やマニュアル作成に活用することが効果的です。

ほかにも、従業員に対して「報告を行うことによって、不利益が生じることはない」と明言したり、上司が率先してヒヤリハット報告を行い、安心して報告できる雰囲気にすることも重要なポイントです。

従業員に注意喚起を行う

ヒヤリハットの防止には、日常的な注意喚起も欠かせません。

業務前後の点呼や社内掲示板、定期的な運転指導や安全運転講習などを通じて、従業員の意識向上を図ることが重要です。

ドライブレコーダーを設置している場合は、ヒヤリハット映像を共有して、従業員に注意喚起を行うことも有効です。

実際の映像を見ることで、事故を起こしやすい運転や道路状況を客観的に確認でき、事故防止に役立てられます。

警察庁のウェブページでは、ドライブレコーダーで記録されたヒヤリハット映像を掲載し、安全運転教育に役立てるよう啓発しているので、あわせて活用すると良いでしょう。

参考:ドライブレコーダーの活用について|警察庁

6.社用車で交通事故を起こした場合の対応手順

社用車で交通事故を起こした場合、個人の事故と異なり会社の信用にも関わるため、迅速かつ適切な対応が求められます。

本章では、「ドライバーの対応手順」「会社の対応手順」に分けて、事故発生時の基本的な流れを紹介します。

万が一の事態に備えて、以下の手順を参考にしてください。

【ドライバーの対応手順】

  • 1. 車を安全な場所に停車する
  • 2. 負傷者を救護する
  • 3. 危険防止の措置をとる(三角掲示板や発煙等を用いる)
  • 4. 警察に連絡する
  • 5. 事故状況の証拠の収集
  • 6. 会社に連絡を入れる

【会社の対応手順】

  • 1. 従業員から事故状況を把握し、現場での対応指示を出す
  • 2. 従業員が怪我をしている場合は、現場に行く
  • 3. 保険会社に連絡する
  • 4. 交通事故証明書を申請する
  • 5. 従業員に報告書作成を依頼する
  • 6. 従業員のケアと安全教育を実施する

社用車を保有する企業では、事故時の対応を取り決めた安全運転管理規定などのマニュアルを作成する必要があり、管理者は規定に則って適切な対処をとることが求められます。

もし、従業員が飲酒運転や無免許運転で事故を起こした場合、本人だけでなく、企業にも責任が追及されます。

社用車による事故は、企業全体の安全管理のあり方も問われるため、日頃から従業員への安全教育や、車両管理体制を整えることが重要です。

関連記事:『車両管理とは?業務内容や企業にもたらすメリット・車両管理システムについて解説

7.まとめ|ヒヤリハットの事例を共有して安全運転の意識を高めよう

本記事では、ヒヤリハットの言葉の意味やヒヤリハットを起こしやすい人の特徴、事例や原因、防止策などについて解説しました。

ヒヤリハットは、一見些細な出来事に思えるかもしれませんが、重大な事故を未然に防ぐための重要なサインです。

ヒヤリハットの事例を日々の運転や、業務に役立てることで、自分自身や周りのドライバーの安全意識を高めることができます。

特に運送業では、ドライバー同士の情報共有が事故防止策の一つとなります。

小さなヒヤリハットを見逃さず、一人ひとりが注意を払うことを心がけましょう。

株式会社パイ・アール ロゴ

この記事の執筆者

株式会社パイ・アールPAI-R Co., Ltd.

安心・安全な交通社会の実現へ向けてさまざまな課題や解決を探求し、アルコールチェックをはじめドライバーの安全管理や業務管理にまつわるさまざまなお役立ち情報を発信しています。

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