車載AIが実現する快適な車内空間|自動運転だけにとどまらない車×AIの進化

自動車の進化は「走る機械」から「知能を持つ移動空間」へと大きく変化しています。
その中心にあるのが車載AI(人工知能)です。
主に自動運転車両の安全運転支援で注目されてきましたが、近年ではドライバーの好みに応じて音楽を提案するシステムや、音声アシスタント機能など、運転以外の分野でも進化をとげています。
そこで本記事では、車載AIが実現する快適な車内空間とエンターテインメント体験の具体例、車載AIの定義やよくある質問、自動車業界における今後のAI活用の展望を解説します。
目次 / この記事でわかること
1.「車載AI」とは?自動運転との違い
近年の自動車には、ナビや音声アシスタント、運転支援システムなど、さまざまなAI技術が搭載されています。
しかし「車載AI」と「自動運転」は同じものではありません。
両者の違いを正しく理解すると、車の未来像やAI技術の役割をより深く知ることができます。
そこで本章では車載AIの概要と、自動運転との違いについて解説します。
1-1 車載AIとは?
車載AIとは、「車両に搭載されるAI技術全般」を指します。
この技術は、車両のカメラやレーダー、センサーが収集したデータをAIが解析し、パターンを学習することで、その精度を高めることが可能です。
自動運転を支えるAIには、車内コンピューターでデータを処理する「エッジAI」と、クラウド上で処理する「クラウドAI」があります。
これらを組み合わせて活用することで、車両とクラウドがリアルタイムで通信し、スムーズな車両制御を実現しています。
車載AIには、走行中に膨大なデータを素早く処理し、迅速な判断と応答が求められます。
そのため、AI関連企業は、データ処理の精度とスピードを向上させるための研究開発を進めているところです。
こうした技術の進化が、安全運転支援やドライバーの異常検知、さらにはナビやエアコンの適切な調整といった機能を可能にしています。
すでに車載AIは、機械制御だけでなく、ドライバーの好みや健康状態に合わせた最適な判断ができる段階へと進化を遂げています。
1-2 AI搭載車と自動運転の違い
AIを搭載した車は必ずしも「自動運転」とは限りません。
AI搭載車は音声アシスタントや運転支援、車内エンターテインメント、ドライバーの状態検知などを備えた車を指し、運転の主体は人間です。
一方、自動運転車はAIやセンサー、カメラ、LiDAR、地図データなどを活用し、加減速やハンドル操作、停止といった運転そのものをシステムが担います。
AI搭載車 | 自動運転 | |
---|---|---|
主な役割 | ドライバーをサポートする補助機能 | 人に代わって運転 |
技術の内容 | 音声アシスタント、運転支援、車内エンタメ、ドライバーの状態検知と警告、好みの設定切替など | AI、カメラ、センサー、LiDAR、地図データを組み合わせ運転を制御 |
つまり、AI搭載車は「ドライバーを助ける補助役」、自動運転は「人に代わって走る存在」と言えるでしょう。
2. 車載AIが実現する「快適な車内空間」と「運転環境」
車載AIは、安全性の強化にとどまらず、快適な車内環境づくりにも役立っています。
たとえば、音声操作によるエアコン制御、シートの自動調整、自動調光や香りの演出などが挙げられます。
さらに近年は、車内が「移動するオフィス」として活用される動きも始まっています。
そこで本章では、車載AIがつくる「快適な車内空間」の具体例について詳しく解説します。
2-1 音声アシスタントでナビやエアコン操作が可能
AIを搭載した車種では、音声でナビの目的地設定やエアコン調整ができます。
代表例として、以下のような音声アシスタントが挙げられます。
【音声アシスタントの例】
- テスラ「音声コマンド」もしくは「 Grok 」
- メルセデスベンツ「 MBUX 」
- BMW「 Intelligent Personal Assistant 」
iPhoneの場合、「Hey Siri」と呼びかけて音声指示を出しますが、車両のAIアシスタントも同じです。
メルセデスのMBUXでは、「Hi, Mercedes」、BMWのIntelligent Personal Assistantでは「OK, BMW」と呼びかけて車載アシスタントを起動させます。
「エアコンを22度にして」「次のガソリンスタンドを探して」など話しかけることで、簡単に操作可能です。
繰り返し利用することで、AIがドライバーの好みを学習し、予測提案を行う機能も利用可能です。
2-2 ドライバーに応じてシートやハンドルの位置を調整
車載AIはドライバーの体格を学習し、シートやハンドル位置を自動で調整します。
【自動調整機能(パーソナライズ機能)の例】
- レクサス「マイセッティング」
- アウディ「パーソナライズ設定機能」
家族や従業員など複数人で車を共有する場合、乗る人ごとに自動で調整されるため、ドライバーが余計な操作に気を取られず、安全運転に集中できるメリットがあります。
2-3 ドライバーの体調・運転状態を検知して注意喚起
車載AIはドライバーのまばたきや心拍数、ハンドル操作の癖などから、眠気や集中力の低下を検知します。
異常が検知された場合は、警告音やディスプレイ表示で注意喚起し、最終的に安全運転システムと連携して、車両を路肩に停止させることが可能です。
代表例として、以下のような機能が挙げられます。
【異常検知機能の例】
- トヨタ「ドライバー異常対応時システム」
- パイオニア「ドライバーモニタリング」
- ボルボ「Driver Alert Control」
体調の変化を早期に察知できることで、安全運転のサポートや事故の防止につながり、ドライバーの健康管理にも役立ちます。
近年は、運送業界でAIの異常検知技術の活用が進んでおり、AI搭載型のドライブレコーダーや安全運転システムを導入する企業が増えています。
以下の関連記事では、異常検知が可能な法人向けAIドラレコの機能や費用相場について紹介しています。あわせて参考にしてください。
関連記事:
『企業がAIドラレコに乗り換える理由は?法人向けAIドラレコの選び方や費用相場|機能や5つのメリットを解説』
2-4 自動調光や香りによるリラックス空間の提供
車載AIは、時間帯や環境に合わせて照明や香りを自動調整します。
【自動調光・調香機能の例】
- パナソニック「WELL Cabin」
- ダイキョーニシカワ「Scent Sync」
長時間運転や渋滞でも快適に過ごせる環境が整い、運転ストレスから開放される「癒しの空間」を体験できます。
2-5 新しいビジネスの場を提供
車載AIは車内を「移動するオフィス(モビリティオフィス)」に変える可能性を秘めています。
【モビリティオフィスの例】
- メルセデスベンツ「FO15 Luxury in Motion」
- メルセデスベンツ×マイクロソフトの「Microsoft 365 Copilot」
- パナソニック「ドーム型フューチャーカー」
モビリティオフィスの技術は開発段階ですが、将来的に移動中の車内で商談や研修の実施が可能になるでしょう。
音声指示でメールの要約や会議準備ができるなど、営業や会議の効率化にもつながるため、将来的に社用車として普及する可能性もあります。
参考:More productivity in the car with improved Meetings app|Mercedes-Benz Group
3. 車載AIがつくる「エンターテインメント体験」5選
車載AIは安全性や快適性の向上に加え、車内を「移動するエンタメ空間」へと進化させています。
動画や音楽の配信、VR・ARを活用した体験、AIとの会話など、移動時間を有意義にする仕組みが整いつつあり、ゲームや学習コンテンツとの連携も可能です。
そこで本章では、車載AIがつくる「エンターテインメント体験」について、具体例を交えて紹介します。
3-1 移動中に楽しめる動画・音楽コンテンツ
音声アシスタントに「80年代の音楽をかけて」「今週のトップ10の曲を流して」と指示するだけで、動画や音楽をハンズフリーで再生できます。
画面を見ながら再生したいコンテンツを探す手間が省け、細かい音質の設定もAIが行うため、安全運転に役立ちます。
【動画・音楽再生機能の例】
- テスラ「Tesla Theater」
- ヤマハ「Music:AI」
- アクセス「ACCESS Twine for the Car」
後付けできる専用デバイスを活用すれば、自宅と同じようにコンテンツを楽しむことが可能です。
3-2 VR(仮想現実)やAR(拡張現実)との融合
VRとは完全に仮想の世界を作り出し、その中に没入できる技術のことで、ARとは現実世界にデジタル情報を重ね合わせて表示する技術です。
ここに車載AIが組み合わさることで、フロントガラスに矢印や標識を映し出して進路を案内したり、車窓に遠隔地の景色を映し出して、知らない街の風景を楽しみながら運転できます。
【VRやARを活用した機能の例】
- アウディ×ホロライド「車内エンターテインメント」
- メルセデスベンツ「ARカーナビ」
アウディとホロライドが共同開発している車内エンターテインメントでは、スピードやカーブなどのリアルタイムの車のデータを取得し、VRの世界と融合させた宇宙船飛行が楽しめます。
参考:アウディ、CES 2023にVR体験プラットフォームを出展:ショーケースが現実のものに(ドイツ本国発表資料)|Audi Japan Press Center
3-3 対話型AIとの会話
テスラ車に搭載された「Grok」は、xAI社が開発した対話型AIで、ユーモアを交えたやりとりが特徴です。
一部地域で出荷された車両に標準搭載されており、同乗者と会話するような感覚でドライブが楽しめます。
雑談やクイズ、物語の朗読なども楽しめるため、移動中も退屈せず、ドライバーにとっては眠気防止にも効果的です。
ほかにも、以下のような対話型AIが挙げられます。
【対話型AIの例】
- エックスAI×テスラ「Grok」
- グーグル×ボルボ「Gemini」
- サウンドハウンドAI×ジープ「サウンドハウンドチャットAIオートモーティブ」
後付け可能な対話型AI専用の車載デバイスを設置すると、アマゾンのアレクサなどの対話型AIも利用可能です。
なお、以下の関連記事では、テスラ車に搭載された対話型AI「Grok」について、基礎知識や使い方、活用アイデアについて紹介しています。あわせて参考にしてください。
3-4 目的地に合わせた観光・グルメ情報の提案
車載AIは従来のナビゲーションに加えて、目的地や走行ルートに応じた観光スポットやグルメ情報の提案が可能です。
天候や事故により、急な予定変更が発生した場合でも、車載AIを活用することで時間をムダにせずに、周辺の観光やグルメを楽しめます。
車載AIの提案機能は対話型AIと重複しますが、以下のような違いがあります。
車載AI | 対話型AI | |
---|---|---|
前提 | ドライバーや同乗者の「移動」に最適化 | 会話を通じて「情報検索」に特化 |
機能の特徴 | ・カーナビと連動し、目的地までのルート上にある観光地、飲食店を提案 ・渋滞や充電スポット(EVの場合)など走行データも考慮できる |
・車に限らず、広範囲な観光情報やレビューをもとにおすすめを提案 ・位置情報を組み合わせれば近隣のグルメ情報なども提案可能 |
具体例 | 「この先のサービスエリアに人気のラーメン店があります。」 | 「京都駅周辺で評価が高い和食レストランを3件紹介します。」 |
機能例 | ・アウディ「アウディコネクト」 ・トヨタ「Tコネクト」 |
・エックスAI×テスラ「Grok」 ・グーグル×ボルボ「Gemini」 |
車載AIと対話型AIは、どちらも音声でやりとりしながら観光スポットや飲食店の提案が可能です。
しかし、車載AIはドライバーの安全やルートを踏まえた「運転ベースの提案」が特徴であるのに対し、対話型AIは車外でも使える、より広範囲で自由度の高い情報検索による「会話ベースの提案」が特徴という違いがあります。
3-5 ゲームや学習コンテンツとの連携
車載AIはゲームや学習コンテンツとも連携し、移動時間を有効活用できます。
子ども向けの知育ゲームや語学学習アプリ、大人向けのビジネス教材などを車内で体験できるのが特徴です。
【ゲームや学習コンテンツとの連携可能な機能の例】
- アウディ×ホロライド「車内エンターテインメント」
- テスラ「シアター、アーケード、おもちゃ箱」
家族や仲間と楽しむエンタメから個人のスキルアップまで、幅広いニーズに対応し、単なる移動空間だった車内を、新しい学びと遊びの空間に変化させます。
4.【Q&A】車載AIに関するよくある質問
車載AIは、移動の価値を高める高度な技術ですが、「どのように使えるのか」「従来のカーナビと何が違うのか」など、疑問を持つ方も少なくありません。
技術の発達とともに、「車載AIを車に取り付けたい」と希望する人も増えるでしょう。
そこで本章では、車載AIに関してよく寄せられる質問に関して、Q&A形式で分かりやすく解説します。
車載AIは音声操作だけでも使える?
車載AIは音声操作だけでも利用可能です。
音声認識技術により、ナビの目的地設定、音楽再生、エアコン調整など、多くの操作をハンズフリーで行えます。
運転中に手を離さずに指示できるため、安全性の向上にもつながります。
ただし、現時点では安全上の理由から、運転に直接影響する操作(エンジンのON/OFF、車線変更など)は利用できません。
古い車でも後付けできる?
古い車にも車載AIを後付けすることが可能です。
後付けできる運転支援システムも増えており、さまざまなデバイスがメーカーから販売されています。
たとえば、Amazonが開発した「Echo Auto」は、名刺サイズのデバイスを車内に取り付けるだけで、Alexaを利用できます。
こうした音声アシスタントは、厳密には「汎用AI」ですが、車内での操作性や利便性を高める点で、車載AIの一部機能を補完する存在として注目されています。
テスラの場合、Wi-Fi接続を通じてソフトウェアをアップデートすることで、Grokの利用が可能です。
ただし、車載AIは車種や年式によって後付けできない場合があるため、事前に対応車種や設置方法を確認してください。
車載AIとカーナビの違いは?
カーナビは目的地検索や経路案内を担いますが、車載AIはより幅広い役割(情報検索、音楽再生など)を担います。
カーナビが「道案内」に特化しているのに対し、車載AIは「移動をサポートするアシスタント」と言えるでしょう。
5. 未来の自動車業界とAI活用
車載AIは運転支援だけでなく、車を「乗り物」から「パーソナルアシスタント」へと進化させ、社会全体の移動のあり方を変える存在になりつつあります。
代表例として、自動運転タクシーやMaaS(マース)などが挙げられ、地方在住者や高齢者の移動支援、観光業界の活性化、運送業界のドライバー不足の解消などに活用されています。
【自動運転タクシーとは?】
自動運転タクシーは、センサーやカメラ、AIを搭載した車両が、ドライバーを介さずに走行する次世代の交通サービスです。アプリ上で配車予約や決済を実行できるため、スムーズなタクシー利用が可能です。日本は実証実験の段階であり商用化はされていませんが、すでに「Waymo(アメリカ)」や「バイドゥアポロゴー(中国)」による自動運転タクシーが運行しています。
【MaaS(マース)とは?】
マースは電車・バス・タクシー・シェアカーなど複数の移動手段をアプリで一括管理し、最適な移動を提案するサービスです。AIの活用により、利用者の好みに合わせた移動ルートや観光スポット、飲食店などをおすすめするため、地方の観光業界にも貢献するとして期待されています。
今後は、AIが自動車そのものの安全性を高めるだけでなく、社会全体の移動インフラを支える基盤として活用されていくでしょう。
6. まとめ|車載AIで新しい移動体験を楽しもう
本記事では車載AIの定義や、車載AIがつくる快適な車内空間とエンターテインメント体験の具体例、よくある質問や自動車業界における今後のAI活用の展望について解説しました。
車載AIは、自動運転のサポートだけでなく、快適な車内空間の提供から、新たなエンターテインメント体験まで、従来の移動のあり方を大きく変えつつあります。
特にエンターテインメントの領域では、将来的に車窓がスクリーンに代わり、仮想空間を運転しているかのようなドライブを楽しむことが可能です。
車載AIの技術が発達することで、車の概念が「移動手段」から「移動空間」として評価され、移動時間や移動空間に価値が生まれる時代が近づいています。
車載AIなどの新たな技術に積極的に触れ、新しい移動体験を楽しみましょう。