酒鬱(さけうつ)とは?|お酒が心身に与える悪影響・うつとの相関性・対策を解説

酒鬱(さけうつ)とは、お酒を飲んだ後に気分が落ち込んだり、不安感が高まったりする状態のことを言います(医学的に正式な病名ではなく、一般的な呼称)。
アルコールは一時的に気分を高揚させるものの、体内で分解される過程で脳の神経伝達物質に影響を及ぼすとされ、うつ症状を引き起こす場合があるようです。
また、長期的な飲酒習慣は、精神的な不調を悪化させる可能性も指摘されています。
本記事では、酒鬱の症状や、うつ症状との関連性、酒鬱の対策方法について詳しく解説します。
お酒との付き合い方を見直し、心身の健康を守りましょう。
目次 / このページでわかること
1.酒鬱(さけうつ)とは?
酒鬱とは、飲酒後に気分が落ち込んだり、焦燥感や不安を感じる状態のことを言います。
お酒の飲み過ぎは、生活習慣病の発症リスクがあるとされていますが、抑うつ症状やうつ病を引き起こす可能性があることは、あまり知られていないことが多いです。
過去の研究では、数週間にわたって大量飲酒を行うと、強い抑うつ感や罪悪感、不安感が増すことがあり、飲酒をやめることで気分の落ち込みが改善したという事例がいくつも報告されています。
また、生まれつき心配性な人や内向的な人は、二日酔いの際に不安感、罪悪感、後悔、緊張を感じやすい傾向があると報告されています。
酒鬱は、お酒を飲む人なら誰でも直面する可能性のあるリスクです。
酒鬱の症状が頻発に起こる場合、アルコール依存症の可能性があるとされています。
アルコール依存症は、うつ病と併発しやすいと考えられており、症状に気付いたらできるだけ早く医療機関を受診することが推奨されています。
2.お酒が心身に与える悪影響とは?
アルコールは適量であれば、リラックス効果をもたらしますが、過度な飲酒は心身にさまざまな悪影響を及ぼします。
本章で紹介するお酒がもたらす悪影響について知り、自分の飲酒習慣を見直すきっかけにしてください。
集中力や記憶力の低下
アルコールの影響で神経伝達物質のバランスが崩れ、集中力や記憶力が低下することが指摘されています。
これは、飲酒により血中アルコール濃度が上昇し、集中力や意欲向上を刺激する「ノルアドレナリン」の生成が阻害されることが原因とされています。
さらに、大量飲酒や長期の飲酒習慣がある人では、脳の萎縮が進み、認知機能の低下を引き起こす可能性があると考えられています。
その中でも、記憶の形成や整理整頓、長期記憶への移行などを行う部位である「海馬」や、言語機能を司る「脳梁」の変化が懸念されています。
加えて、慢性的な飲酒は将来的な認知症のリスクを高めることも指摘されているため、日常的にお酒を飲む方や、ついつい飲みすぎてしまう方は、意識的に酒量をコントロールすることが大切です。
睡眠の質が低下する
お酒を飲むと「寝つきが良くなる」と感じる人も多いですが、実際は、睡眠の質を低下させることが分かっています。
アルコールは入眠を助ける一方で、深い睡眠(ノンレム睡眠)の時間を短くし、夜中に目が覚めやすくなる作用があると考えられています。
また、長期にわたる飲酒によりアルコール耐性がつくと考えられ、寝つきを良くするためにお酒を飲み続けると、しだいに摂取する酒量が増えるリスクが指摘されています。
うつ病や不安障害を引き起こす可能性がある
お酒を飲むと一時的に気分が良くなりますが、アルコールが体から抜けると、酒鬱の症状である、抑うつ気分や焦燥感がでやすくなると言われています。
気分の落ち込みを解消するために、再び飲酒をするサイクルが作られると、アルコール依存症のリスクが高まるため、飲酒以外の方法でストレスを解消したり、早めに医療機関を受診したりすることが大切です。
薬の効きが悪くなる・増強する
薬の服用中に飲酒をすることで、抗うつ薬の効きが薄れたり、逆に増強したりすることが指摘されています。
特に、睡眠薬や安定剤は脳の動きを強く抑えるため、飲酒により昏睡状態や意識消失の危険性があると考えられています。
命の危機に関わる可能性があるため、薬を服用中の飲酒は控えましょう。
自殺のリスクが高まる傾向がある
酒鬱の症状が悪化したり、頻発したりする場合、アルコール依存症の疑いが考えられます。
近年の調査では、アルコール依存症とうつ病は併発することが多く、自殺者の1/3が直前にお酒を飲んでいたことが分かっています。
また、アルコール依存症の人は、依存症でない人と比較して、自殺の危険性が約6倍高いとされています。
飲酒後に強く落ち込んだり、イライラしたりする場合は、早めに医療機関を受診するようにしましょう。
3.うつ病とアルコール依存症の相関性
うつ病とアルコール依存症は、併発するケースが多いと考えられ、4つのパターンがあると言われています。
【アルコール依存症とうつ病の併発パターン4つ】
- ・単なる合併または共通の原因(ストレス・性格・遺伝因子)などによる場合
- ・長期の大量飲酒がうつ病を引き起こした場合
- ・憂うつ気分や不眠を緩和しようと飲酒した結果、依存症になった場合
- ・アルコール依存症の人が、飲酒をやめることで生じる離脱症状のひとつとして、うつ状態がみられる場合
アルコール依存症とは、お酒の飲み方(量、タイミング、状況)をコントロールできなくなった状態を指します。
症状が進行すると、脳萎縮やアルコール性肝障害のリスクが高まるほか、集中力の低下、手足や全身の震え、不整脈、イライラ感、幻覚などの離脱症状が表れ、頭の中が飲酒のことでいっぱいになり仕事や家庭などに悪影響をもたらします。
アルコール依存症は、単なる意志の弱さではなく、医学的に認められた精神疾患です。
うつ症状が併発した場合、改善には数ヶ月の禁酒が望ましいとされていますが、本人がなかなか飲酒をやめられない現状があると言われています。
重症化する前に、早めに医療機関を受診して適切な治療を受けたり、本人が受診を拒否するようであれば、依存症を抱える人やその家族が参加する断酒会や自助グループに行ってみたりするのも対処のひとつと考えられています。
4.医療機関を受診する目安
酒鬱の症状が続く場合、単なる一時的な気分の落ち込みではなく、アルコール依存症やうつ病につながる可能性があります。
飲酒の仕方や気分の変化が日常生活に支障を及ぼしている場合は、早めに専門医に相談することが重要です。
そこで本章では、医療機関を受診すべき兆候について解説します。
飲酒以外に喜びを感じない
お酒を飲むことだけが楽しみになり、以前は好きだった趣味や、友人との交流に興味を持てなくなった場合、アルコール依存症の兆候かもしれません。
飲酒がストレス発散の手段になると、しだいに飲む量が増え、酒鬱が悪化することがあります。
日常生活における楽しみが減り、飲酒が中心になっていると感じたら、医療機関を受診するタイミングかもしれません。
飲酒中の記憶がない
お酒を飲んだ後に記憶が途切れる「ブラックアウト」が頻発する場合、脳に深刻な影響が及んでいる可能性があるとされます。
「飲酒後の行動を覚えていない」「翌朝に他人から言動を指摘されることが増えた」という場合は要注意です。
お酒との付き合い方をよく考え、減酒や禁酒をしたり、早めに医師などに相談したりしましょう。
飲酒量のコントロールができない
「お酒が飲みたい!」という気持ちは、多くの人が感じたことがあるでしょう。
仕事で疲れたときや、お祝い事があったときなど、つい飲酒量が増えてしまいますが、たまに飲酒量が増える程度であれば、それほど心配する必要はないとされます。
しかし、お酒を飲むタイミング、お酒を飲む状況、お酒の量がコントロールできない状況が続いた場合、アルコール依存症の可能性が考えられます。
コントロールが効かなくなると、酒鬱の症状が悪化し、精神的にも身体的にも悪影響を及ぼすリスクがあるとされます。
早めに医療機関を受診し、対策を講じることが重要です。
飲酒後の気分の落ち込みが激しい
飲酒後に、強い抑うつ感や不安を感じる場合、アルコールがメンタルヘルスに悪影響を及ぼしている可能性があります。
お酒を飲んだ翌日に、孤独感や絶望感が強まる場合は、酒鬱が進行している可能性があるため注意が必要です。
このような症状が頻繁に起こる場合は、心療内科などの専門機関の受診を検討しましょう。
5.酒鬱(さけうつ)にならないために|対策方法5つ
酒鬱を防ぐためには、飲酒習慣を見直し、心と体の健康を意識した生活を送ることが大切です。
アルコールによる気分の落ち込みを防ぐために、具体的な対策を5つ紹介します。
① 質の良い睡眠をとる
質の良い睡眠は、心身の疲労回復や、ストレスの緩和、免疫力を高める効果があるとされています。
寝つきを良くするためにお酒を飲む人もいますが、アルコールは睡眠の質を下げるため、寝る前の飲酒は控えたほうが良いでしょう。
眠れない時は、以下の対処法が効果的とされています。寝つきが悪いと感じている方は、自分に合った方法を試してみましょう。
【眠れない時の対処法】
- おでこや手のひらを冷やし、深部体温を下げる
- 呼吸法やストレッチをする
- 専門書や参考書などの難しい本を読む
- スマートフォンの操作を控える
- 考えが堂々巡りする場合は、メモをとり言語化する
- アロマオイルを使う
- 温かい飲み物を飲む
- 寝具や睡眠環境を変える(枕の高さ、部屋の温度、明るさなど)
翌日の予定がない場合は無理に寝ようとせず、一度ベッドから離れ、好きなことをしたり映画をみたりし、眠くなるまで待つことも良い方法とされています。
② ストレスをためない
ストレスがたまると、お酒を飲んで発散しようとする人もいますが、アルコールは一時的な気晴らしにしかならず、根本的な解決にはなりません。
むしろ、飲酒によって脳の神経伝達物質のバランスが崩れ、かえってストレスを増大させる可能性があるとされます。
健康的なストレス解消法はたくさんあるため、以下の例を参考に、自分に合った方法で取り組んでみましょう。
【ストレス解消法】
- 身体を動かす
- 趣味に没頭する
- 好きなものを食べる
- 好きな音楽を聴く
- 深呼吸をする
- 日光を浴びる
- 睡眠時間を確保する
- 仲のいい人と過ごす
- 泣いたり、笑ったりする など
仕事のストレスの場合、自分で工夫すれば改善できる部分と、そうでない部分があります。
自分だけではどうしようもない場合は、物事の受け止め方や思考パターンを見直してみると良いと考えられています。
「0か100の考え方をやめ、中間を目指す」「自責思考をやめる」「物事の負の面ばかりをみない」など、意識的に思考の癖を変えることで、ストレスがたまりにくくなるとされています。
最近では、手頃な価格で有資格者によるオンラインカウンセリングが利用できるサービスもあるため、自分に合った方法でストレスに対処していきましょう。
③ 専門家に相談する
飲酒後に気分が落ち込む、暗くなるなどの酒鬱の症状がみられる場合は、早めに医師に相談しましょう。
症状の程度によっては、減酒や禁酒だけで回復する場合があるとされますが、「お酒をやめたいのに飲んでしまう」という場合、アルコール依存症の可能性が考えられます。
アルコール依存症は、早期に発見し治療を始めることで、健康や社会生活への影響を最小限に抑え、治療にかかる時間や負担も軽減できると言われています。
客観的に自分をみてもらうのも良いとされるため、勤めている企業に産業医や看護師がいる場合や、知り合いに医療従事者がいる場合は、お酒を飲んだ時の変化を話してみると良いでしょう。
④ 自分に合った飲酒量を心がける
アルコールの分解能力には個人差があるため、自分に合った適量を知ることが大切です。
少量の飲酒でも気分が落ち込みやすい人もいるため、過去の飲酒を振り返り、「どのくらい飲むと翌日に影響が出るか」を把握し、飲酒量を調整しましょう。
また、アルコールチェッカーを活用すれば、客観的にアルコール濃度を確認でき、適量を守る意識が高まります。
自分のアルコール耐性を知りたい方は、病院に行かずに、自宅で手軽にアルコール体質検査が行えるサービスを利用するのも1つの方法です。
以下の関連記事では、実際にアルコール体質検査を利用した体験談を紹介しています。自分に合った飲酒習慣を身につけたい方は、ぜひ参考にしてください。
関連記事:『【体験談】アルコール体質検査を体験|適切な飲酒量を把握して上手に付き合おう』
⑤ 休肝日を設ける
アルコールは依存性があるため、長期的な飲酒習慣がある方や、大量飲酒をする方は、アルコール耐性がつき、酒量が増えやすいと考えられています。
酒鬱やアルコール依存症のリスクを抑えるためには、週に1〜2日程度の休肝日を設けることが推奨されています。
厚生労働省の研究によると、週に3日以上の休肝日を設けることで、がんを含むさまざまな疾患のリスクを抑えられる可能性があると報告されています。
休肝日がもたらす効果や、効果的な休肝日の過ごし方を詳しく知りたい方は、以下の関連記事で紹介していますので、参考にしてください。
6.まとめ|自分に合ったお酒との付き合い方を心がけよう
本記事では、酒鬱の症状や、アルコールが心身に与える悪影響、アルコール依存症とうつ病の関連性、酒鬱対策などについて解説しました。
お酒は適量であれば、リラックス効果をもたらしますが、過度な飲酒は酒鬱や健康リスクを高める原因になります。
ストレス発散のための飲酒や習慣化した大量飲酒は、心身の不調を引き起こしやすいため、注意が必要です。
お酒との付き合い方を見直し、心と体のバランスを保ちながら、健康的に楽しむことを心がけましょう。