ライドシェアリングの5つの問題点とは?日本における白タクとの違いや今後の課題
昨今ニュースでよく耳にする「ライドシェア」。
政府はタクシーが不足している地域や時間帯などに、タクシー会社の管理のもとで一般ドライバーが有料でサービスを提供できる新たな制度を2023年度中に設ける方向で調整していることが明らかになりました。
今後の市場拡大の行く末はどのようになっていくのでしょうか?
この記事を通してライドシェアのメリット・デメリットを正しく理解しましょう。
1.ライドシェアリングとは?
そもそもライドシェア(Ride Share)とは自動車の相乗りサービスを意味し、他の利用者と座席をシェアして使用する仕組みです。
一般ドライバーが自家用車を使用して、運送サービスを提供します。広義的には自動車以外の自転車やバイク等も含まれますが、本記事においては自動車に限定して解説していきます。
関連記事:『ライドシェアとは?カーシェアとの違いやメリット・デメリットを解説』
白タクとの違いは?
白タクは、国の許可なく白色ナンバーのまま個人が旅客輸送業を行う違法タクシーです。
通常のタクシーは国から営業許可を得て緑色のナンバーをつけているため、区別するために「白タク」と呼ばれるようになりました。発覚すれば、『3年以下の懲役または300万円以下の罰金』の重い罰則が科される可能性があります。
それに対してライドシェアは、国から認可を受けた上で行う旅客輸送事業であり、違反行為に当てはまりません。
参考:e-Gov法令検索「道路運送車両法」
白タクは日本では違法
ライドシェアは自動車の相乗りサービスとして世界では急速に普及してきているサービスです。
しかし日本では営業許可がない個人が自家用車を使って運転するタクシー(=白タク)は、道路運送法の第78条で原則禁止されています。
参考:近畿運輸局「違法タクシー(白タク)の啓発について」、九州運輸局「違法タクシー(白タク)の啓発について」
福祉などの目的の自家用有償旅客運送であれば認められている
白タクは日本では原則禁止されていますが、一部例外があり「自家用車有償旅客運送」がそれに該当します。
「自家用有償旅客運送」とは、バス、タクシー、電車などが一定の距離になく、十分な移動サービスが提供されない過疎地域などで、国土交通大臣の登録を受けた市町村、NPOなどが自家用車を用いて有償で運送する仕組みです。
この他に、豪雨や地震、火災といった災害が起こって緊急を要する際にも、有償での運送は認められています。
2.ライドシェアリングの5つの問題点
ライドシェアの問題は、分かりやすく言うと「タクシーとの差」です。タクシーでは当然なことが、現時点の国内ライドシェアの取り決めでは担保されません。
そもそもタクシーは会社が個人に提供するサービスであり、ライドシェアはサービスプラットフォーム上とはいえ、個人と個人でのサービス取引です。
従って責任や信頼性が希薄な関係から、さまざまな問題が発生することが懸念されています。本章では、今後考えられるライドシェアの問題点を5つ紹介します。
①ドライバーが加害者となる事件への懸念
ライドシェアを導入する上で、一番懸念されているのはドライバーが乗客に危害を加える事件でしょう。
実際にライドシェアが普及している世界各国では既にライドシェアの運転手による乗客への暴行や誘拐といった犯罪が発生していることから、同乗中に危険な目に遭う可能性もあります。
車内という密閉空間になるため、人の目から触れにくく、また乗客が逃げることが困難となります。
参考:CNN「性的暴行998件、レイプ141件 米ウーバーが安全報告書公開」
AFPBB News「女性客に性的暴行の「ウーバー」運転手に終身刑、インド」
②乗客が加害者になる場合もある
また酔っ払いの乗客などによる暴言・暴行行為なども懸念されています。
個人の自家用車の車内で嘔吐されたり、車を傷つけられる可能性もあります。
従って、運転者は車内撮影用にドライブレコーダーを搭載することも必要だと考えられます。
世界各国のライドシェアの仕組みの多くは「相互レビュー」が採用されており、乗客も運転者もお互い気持ちよくサービスが利用できるように相手側の情報を事前に把握して選択することが可能です。
③ドライバーの飲酒運転
タクシーは運行管理者によってドライバーの体調確認、車両点検、酒気帯び確認が義務付けられていますが、ライドシェアでは一般のドライバーが自家用車で乗客を乗せるため、そのようなチェック体制がとられていません。
ドライバーが万が一飲酒運転をしていても、よほどの酩酊状態でなければ乗客は気づけないかもしれません。
乗客はもちろんですが他の歩行者などにも危険をもたらし重大な事故に繋がってしまう恐れがあります。
その他労働時間の規制もないため、体調不良や居眠り運転なども懸念されています。
④ライドシェアは質が担保されない
ライドシェアの反対意見として多く挙げられるのが、運転の質や安全性が担保されていないという点です。
ライドシェアは運転免許証があれば誰でも始められるので、ドライバーによって運転技術に差があり不安を感じている人が多いようです。
⑤事故の場合の保険や保障
海外のライドシェア運営会社の多くは、同乗者の補償が十分なされるように運転手に任意保険の加入を義務付けているそうです。通常、乗客の輸送を行っている間はライドシェア運営会社負担で事業用の保険が適用され、交通事故発生時の補償に対応できるといったシステムになっているようです。
日本でライドシェアが解禁となった場合は、万が一の事故の際の補償面も注目すべきポイントです。
3.ライドシェアリングのメリット3選
日本での白タクは原則禁止されていることもあり、不安や心配の声が多く聞こえてきますが、ライドシェアには以下のようなメリットもあります。
- ①タクシーと比較して低料金で移動できる
- ②ドライバーが自家用車を有効に活用できる
- ③タクシー不足による不都合が軽減される
上記3つを解説していきます。
①タクシーと比較して低料金で移動できる
目的地が近い人同士で相乗りしますので、ガソリン代などの交通費は全員で割り勘することになります。
1人でタクシーに乗るよりも支払い料金は安くなります。
※2024年4月に新たに日本で始まる制度においては、運賃は通常のタクシーと同等の予定です。
そもそもタクシーよりもライドシェアの方が料金は2〜3割安いことが一般的に多く、移動にかかる費用を安く済ませることができます。タクシーは会社が運営する以上、個人収入よりも利益幅をきちんと確保しないといけません。
ただし、今後のライドシェアの乗車料金は需要と供給のバランスによって変動する「ダイナミックプライシング」が採用されると予想されており、この仕組みによって、運転手が深夜早朝でも利益が確保できるようになります。その分、サービスを利用できる時間帯が広がると考えられています。
②ドライバーが自家用車を有効に活用できる
自家用車を保有しているが乗る頻度が低く、維持費がかさんでいる方も多いと思います。
ライドシェアはすでに保有している車を使って手軽に働くことができ、維持コストの軽減にもなります。
③タクシー不足による不都合が軽減される
近年運転手不足によりタクシーが不足しており、過疎地ではコロナ禍前よりタクシー会社の撤退も増えています。それに対してコロナ禍からの経済回復で外国人観光客が急増し、観光地でも不足しています。
そういったタクシーの不足をカバーする意味でも期待されるでしょう。
4.ライドシェアリングの今後の見通しは?
日本では白タクが禁止されているため、本格的な運用開始には多くの壁がありますが、交通手段としての利便性だけではなく、過疎地のドライバー不足の解消、CO2排出の削減による環境への配慮など今後の日本を待ち受ける多くの課題を解決する手段としても注目を浴びています。
ドライバー、乗客双方の安全が守られるルールをきちんと整備した上であれば今後の普及も期待されるのではないでしょうか。
NHK「大阪府・市 「ライドシェア」制度案まとめる 国に提案へ」
関連記事:『ライドシェアに関する最新情報』
5.まとめ
日本におけるライドシェアにまつわる議論は長年に及んでおります。
そもそもライドシェアは公共交通機関がなくて移動手段に困っている人たちが多い地方ほど必要不可欠です。
世界規模で見ると先進国でライドシェアが進んでいない国といえば、まず日本が挙げられるでしょう。海外からの観光客が増加する今、日本では自国同様のサービスが受けられないという声をニュースでもよく耳にします。
タクシーの運転手不足、運転手の高齢化、海外観光客の増加、地方の過疎化、需要と供給が不釣り合いになっている日本において、新たな移動インフラは間違いなく必要です。
近い将来、交通インフラという分野において日本の常識は大いに変わるかもしれません。