モペットは自転車ではない|取り締まり強化の背景と罰則・罰金について解説
街中で自転車のようにペダルが付いているのに、バイクのように速度が速い乗り物を見かけたことはありませんか?
その乗り物は、おそらく「モペット」と呼ばれているモーターやエンジンが搭載されている車両です。
警察やニュースなどでは、「ペダル付き原動機付自転車」と言われることが多いようです。
ペダルがついていることで、電動アシスト自転車と同じ分類だと思われる方が多く、事故や違反が相次いでいました。そのような背景から、2024年11月1日から施行された道路交通法改正では、ペダルだけで走行した場合も原付バイクに分類されると明文化しました。
今回はそんなモペットの、取り締まりや罰則についてくわしく解説します。
目次 / このページでわかること
1.モペットは自転車ではなく「原動機付自転車(原付)」に分類
モペットは、電動アシスト自転車と似ていますが、自転車ではなく「原動機付自転車」に分類されます。
この章ではモペットの概要について解説します。
そもそもモペットってどんな乗り物?
モペットとは、エンジンとペダルを併用して走行できる原動機付自転車で、モペットの大きな特徴は原動機だけで走行できることや、ペダルをこいで人力だけで走行することができる点です。
低速での移動が可能で、燃費がよく都市部での短距離移動に適しているため、近年では日本国内でも注目を集めています。しかし、それと同時に運転者が交通ルールを遵守していないことが問題視されるようになりました。
そこで大きなポイントとなるのが、モペットは道路交通法では50cc以下のバイクと同じ「原動機付自転車(一般原動機付自転車)」に分類される点です。モペットを運転する際には原動機付自転車を運転する場合と同じルールを守ることが必要です。
モペットは原動機付自転車(原付バイク)と同じ交通ルール
モペットには自転車と同様にペダルが付いています。しかし、ペダルと原動機を備える車両であっても、駆動補助機付自転車(電動アシスト自転車)の基準に適合しないものは「自転車」ではなく「原動機付自転車」として分類されるため原付バイクと同じ交通ルールを守る必要があります。
電動アシスト自転車とモペットの違いは?
電動アシスト自転車とモペットは非常に似ていますが、いくつかの違いがあります。
本章では、4つにわけて解説します。
①モーターアシストとエンジン
電動アシスト自転車は、ペダルをこぐ力に応じてモーターがアシストする仕組みで、モーターはアシストであり、ペダル無しで動くことができません。
それに対してモペットは、エンジンが搭載されており、ペダルが無くてもエンジンの力だけで走行が可能です。
②速度
電動アシスト自転車は、法律により速度を制限しています。24km/hまでアシスト機能が働き、それ以上を超えるとアシスト機能が停止します。
それに対してモペットはエンジンが搭載されているため、自転車よりも速い速度で走行できます。原動機付自転車の法定速度が30km/hのため、モペットも同様に30km/hに制限されます。
③規制
電動アシスト自転車は、自転車と同じ扱いを受けるため、信号や歩行者優先のルールを守る必要があります。それに対してモペットは、車両(原動機付自転車)としての扱いとなるため、道路交通法に従いヘルメットの着用が義務付けられています。
④免許
電動アシスト付き自転車は、運転免許証が不要です。
それに対してモペットは、電動アシスト自転車や特定小型原動機付自転車に該当せず、50cc以下のバイクと同様に原動機付自転車に該当するため、運転免許が必要になります。
また、免許不要で乗れるモペットがあると誤解されている方が多いようですが、下記の参考記事に掲載されている特定小型原動機付自転車に分類される電動サイクルと誤認されている可能性が高いかもしれません。
2.モペットの交通ルールと罰則・罰金について
モペットは前述した通り、原動機付自転車の交通ルールを守る必要があります。
下記が守るべき交通ルールです。1つずつ解説します。
- ・原動機付自転車免許の取得
- ・ヘルメットの着用、ナンバープレートの取り付け
- ・自賠責保険の加入
- ・歩道、路側帯、自転車道の走行は原則不可
- ・整備不良、保安装置の取り付け
モペットの運転には免許が必須
無免許でモペットを公道で運転することや、無免許者にモペットを貸与することは、法的な罰則が伴います。それぞれの罰則について以下の通りです。
無免許でモペットを運転した場合
- ・罰則:3年以下の懲役または50万円以下の罰金
- ・行政処分:違反点数25点
無免許の人にモペットを貸与した場合
運転車が無免許であることを知りながらモペットを貸した場合、無免許運転者と同様に「3年以下の懲役または50万円以下の罰金」が科されます。
免許不携帯でモペットを運転した場合
免許不携帯の場合、3,000円の反則金が科されます。
保険への加入が義務(自賠責保険)
モペットを公道で走行させる際には、自賠責保険(自動車損害賠償責任保険)への加入が法律で義務付けられています。自賠責保険は、交通事故の被害者救済を目的とした強制保険で、原動機付自転車を含むすべての自動車に適用されます。自賠責保険だけでは補償が不十分な場合があるため、任意保険への加入も推奨されています。
無保険で運行した場合
- ・罰則:1年以下の懲役または50万円以下の罰金(自動車損害賠償保障法第86条の3第1項第1号)
- ・行政処分:違反点数6点
無保険運行は重大な違反となるため、必ず自賠責保険に加入し、保険証書を携帯することが重要です。
ヘルメットの着用・ナンバープレートの取り付けが必須
モペットを公道で運転する際には、道路交通法第71条の4第2項によりヘルメットの着用と、各市町村の条例によりモペットの車両登録とナンバープレートの装着が義務付けられています。また、ナンバープレートは見やすい場所に取り付ける必要があります。
ヘルメット未着用で運転した場合
- ・行政処分:違反点数1点
ナンバープレート未装着で運転した場合
- ・罰則:5万円以下の罰金
- ・行政処分:5,000円の反則金
整備不良・保安装置に関しても罰則・罰金がある
モペットは、道路運送車両法および道路運送車両の保安基準に基づいて、以下の装置を必ず装着する必要があります。
- ①前照灯(ヘッドライト)
- 夜間走行時や視界が悪いときに道路を照らし、他の車両や歩行者に自分の存在を知らせるために必要です。
- ②番号灯、尾灯(テールランプ)、制動灯(ブレーキランプ)および後部反射器
-
- ・番号灯:ナンバープレートを照らす灯火です。
- ・尾灯:後方からの視認性を確保するために必要です。
- ・制動灯:ブレーキをかけた際に後続車に減速を知らせる役割を果たします。
- ・後部反射器:光を反射させ、夜間など視認しにくい状況での安全を確保します。
- ③警音器(クラクション)
- 危険を知らせるために使うもので、適切に作動する必要があります。
- ④消音器
- エンジン音を抑える装置で、騒音を防止し、環境に配慮するために必要です。
- ⑤方向指示器(ウィンカー)
- 進行方向を示すために使用し、車線変更や右左折時に必要です。
- ⑥後写鏡(バックミラー)
- 後方の確認を容易にするために必要で、交通状況を確認するための重要な装置です。
- ⑦速度計
- 自分の走行速度を把握し、法定速度を守るために必要です。
上記の装置を適切な整備・装備がされていない場合、罰則があります。
整備不良の場合
- ・罰則:3か月以下の懲役または5万円以下の罰金
- ・行政処分:制動装置等の場合は、違反点2点と反則金6,000円
尾灯等の場合は、違反金1点と反則金5,000円
歩道を走行した場合も罰則の対象に
モペットは原動機付自転車として扱われ、自転車とは異なり歩道を走行することは禁止されています。歩道を走行した場合は、通行区分違反となり下記の罰則、行政処分が科されます。
歩道を走行した場合
- ・罰則:3か月以下の懲役または5万円以下の罰金
- ・行政処分:違反点数2点、反則金6,000円
また、2024年11月1日から施行された改正道路交通法(第2条第1項第17号)では、モペットのエンジンやモーターを止めてペダルだけで走行する場合も、原付バイク扱いになることを明文化しました。したがって、モペットでの歩道走行がもちろん禁止であることをはじめ、走行方法にかかわらず原付バイクのルールを守らなければ罰則の対象となります。
十七 運転 道路において、車両又は路面電車(以下「車両等」という。)をその本来の用い方に従つて用いること(原動機に加えてペダルその他の人の力により走行させることができる装置を備えている自動車又は原動機付自転車にあつては当該装置を用いて走行させる場合を含み、特定自動運行を行う場合を除く。)をいう。
引用元:道路交通法 第2条第1項第17号|e-Gov法令検索
ただし、モペットのエンジンやモーターを切って押して歩く場合は、歩行者の扱いとなるため通行区分違反にはなりません。モペットを押して歩くときは、歩行者の妨げにならないようにするのはもちろん、けがを負わせないためにも、エンジンやモーターを必ず切るようにしましょう。
参考:「モペット」はバイクなどと同じ扱いに 改正道路交通法が施行|NHK NEWS WEB
改正道路交通法の概要等(ペダル付き原動機付自転車に関する規定の整備)について|警察庁
3.モペットの飲酒運転の罰則
先ほど解説した通り、モペットは「原動機付自転車」に分類されます。
モペットで飲酒運転をした場合は、原動機付自転車で飲酒運転した場合と同様に、厳しい罰則、時には厳しい刑罰が言い渡されます。
飲酒運転は「酒酔い運転」と「酒気帯び運転」に分類されますので、それぞれの分類ごとに罰則を解説します。
①酒気帯び運転の場合
呼気中のアルコール濃度が1リットルあたり0.15mg以上含まれる状態で運転することを指します。
呼気中アルコール濃度 0.15mg/L 以上 0.25mg/L 未満
- ・罰則:3年以下の懲役または50万円以下の罰金
- ・行政処分:免許停止(停止期間90日)
違反点数:13点
呼気中アルコール濃度 0.25mg/L 以上
- ・罰則:3年以下の懲役または50万円以下の罰金
- ・行政処分:免許取消(欠格期間2年)
違反点数:25点
②酒酔い運転の場合
アルコール濃度の検知値には関係なく、飲酒により正常な運転ができないおそれがある状態で運転することを指します。
- ・罰則:5年以下の懲役または100万円以下の罰金
- ・行政処分:免許取消(欠格期間3年)
違反点数:35点
また、酒類提供者には「3年以下の懲役又は50万円以下の罰金」もしくは「2年以下の懲役又は30万円以下の罰金」が科せられます。
飲酒運転については下記記事で詳しく解説しています。合わせてご覧ください。
関連記事:『【2024年】飲酒運転の概要と現状について|罰則と行政処分・防止するためにできること』
4.モペットが「自転車」だと誤解されて問題になっている
モペットは便利な乗り物ですが、交通違反が増加していることは深刻な問題です。
交通違反が急増している背景には、モペットを「自転車と同じ」と誤解して運転する人が多いことが考えられます。
モペットは、エンジンとペダルがついていて完全電動走行ができる原動機付自転車を指します。そのため、「自転車」ではなく「原動機付自転車」のルールを守る必要があります。また先述したとおり、ペダルだけを使用した走行でも原動機付自転車と同じ扱いとなります。
政府は、交通ルールの周知と違反の抑制を目的として以下のような取り組みをおこなっています。
- ポスターやリーフレット、動画による啓発活動
- 交通反則通告制度の強化
- 特定小型原動機付自転車運転者講習の設置
モペットを利用する際は原動機付自転車と同様の交通ルールを遵守し、安全な交通社会を目指しましょう。
なお、特定小型原動機付自転車については下記の記事をご覧ください。
関連記事:『飲酒した状態で電動キックボードに乗るのは交通違反|罰則や事故の事例を紹介』
5.【2024年】モペットの取り締まり事例3選
前章で、モペットの飲酒運転をした場合の罰則について解説してきました。
実際にモペットで、取り締まりをされた事例がありますので、本章ではその事例を3つ挙げて、それぞれ解説します。
渋谷で「モペット」取り締まり、無免許運転などで5人が違反
まずは、渋谷でモペットの取り締まりがあった事例を紹介します。
春の全国交通安全運動(4月6日〜15日)に合わせ、警視庁交通執行課は10日、「モペット」と呼ばれるペダル付き電動自転車の交通違反の取り締まりを東京都渋谷区で実施しました。
同課によると、5人が無免許運転やナンバープレートを付けていないなど6件の道路交通法違反で取り締まりを受け、そのうち2件が無免許運転でした。
本記事で述べている通り、モペットには「運転免許証」が必要です。無免許での運転は絶対にやめましょう。
違法モペットでデリバリーか?
次にモペットを利用し、デリバリーをしている事例です。この事例では、モペットによる事故についても述べられています。
昨年の7月、東京・新宿区で撮影された映像があります。赤信号を無視した“違法モペット”が、道路を横断しようとしていた自転車の女性に衝突し、女性はその場で転倒したうえに頭などに大けがをするという事故がありました。赤信号の無視もしているので、悪質な事故だと言えるでしょう。
今回のニュースではモペットの取り締まりの難しさやネット販売では、「自転車」と表記されていることなどが議論されています。悲しい事故を起こさないためにも、モペットを利用する一人ひとりがルールを守ることが重要だと言えるでしょう。
参考記事:“違法モペット”でデリバリーか……歩道乗り上げ、信号無視 危険な運転を追跡!配達員は『自転車』と主張|日テレNEWS NNN
無免許、歩道走行など苦情相次ぐ
最後の事例は、モペットで歩道を走っているという苦情のケースです。
今回の苦情は、若者を中心にルールを知らずに運転しているケースも多いとみられ、「歩道を走っていて危ない」などの声が相次いでいます。
令和5年の人身事故は24件で、今年1月には無免許運転で70代女性をはね、骨折などのけがを負わせたとして20代の男が書類送検されており、取り締まり件数も令和4年は31件、令和5年は56件、今年は2月末までに37件(暫定値)と急増しています。
警察でも危機感を募らせており、「モペットは自転車ではなくバイクであることを認識し、交通ルールを守って安全に走行してほしい」と呼び掛けています。
モペットの取り締まり事例について解説しましたが、モペットと同じく急速に広がりを見せている電動キックボードの取り締まりについては、下記記事で解説しています。合わせて読んでいただき、交通ルールを遵守しましょう。
関連記事:『飲酒した状態で電動キックボードに乗るのは交通違反|罰則や事故の事例を紹介』
6.まとめ|モペットの罰則・罰金を正しく理解しよう
本記事ではモペットと電動アシスト自転車の違いや罰則・罰金について詳しく解説しました。
モペットは電動キックボードに続いて、「燃費がいい」「低速で移動ができ、短距離移動に適している」といった魅力があり、日本国内でも注目を集めています。しかし、それと同時に運転者が交通ルールを守らず、モペットによる事故や違反も問題視されています。
モペットに乗る際にはしっかりと交通ルールを守り、免許の取得やヘルメットの装着などを必ず行い、安全快適にモペットを利用できるようにしていきましょう。